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朔の夜に咲く






孫市の合流の後、




「見えました!此処に咲耶ちゃんが……って、わわっ!皆さん何してるんですか!」



「ここ、眩しいね小鳥さん…きらきら……してるの…」




寝間着の鶴姫とお市が合流し、一気に騒がしくなる部屋に、家康は楽しげに目を細めていた。
とても、明るく和やかな空気。家康が望む未来に近い、その光景に図らずも笑みがこぼれる。(逃げ回る慶次は、必死そうだが)



そんな中、伊達政宗だけは部屋の隅に佇み未だ眠る少女のそばを離れない。
視線がかち合うと、彼は家康を睨みつけてきた。



「はは、龍に睨まれてしまったな」

睨み続ける政宗に、臆す事なく近づく家康は膝を折った。規則正しい寝息をたてる少女を覗き込もうとして、

「……わかってねぇな。気安く近寄るなって意味だぜ?you see?」


鞘に入ったままの刀を向けられて、家康は動きを止めた。


「…蛇に睨まれたところで、儂は蛙ではないからなぁ」

にこり、と微笑んで皮肉のひとつを吐く。ある程度距離をおいて家康は胡座をかいた。



部屋ではまだ、賑やかな声がしている。





「なんだ?儂が怖いか独眼竜?」

「shut up!下心が見え見えなんだよ……」



睨みあい火花を散らせていた二人だったが、眠っていたはずの咲耶の異変に思わず目を見開いて、「咲耶!?」と名を呼んだ。

彼女の、染め直した黒髪が。


闇夜に桜が咲くように、艶やかな薄紅に染まっていく。乾いた布に水が浸透するように。


彼女の髪は、桜色になっていた。



「いったい、これはどういう…」
家康が驚きを隠さないまま、政宗を見やったが当の政宗は緊迫したような表情で、彼女の体を揺さぶった。


「咲耶!起きろ!……頼む…!」




「っ…う、」

勢いよく揺さぶられたせいか、彼女は苦しそうに呻いてから…


「……め」


「…目?」



「三成めぇええぇ!いきなり何するかと思えば私のファースt……いや、待てよそんなのとっくに奪われてたじゃん。
けど深いのは別だよね!ていうか私寝過ぎだよね主人公なのにぃいいっ!」

「いきなり叫ぶなっていつも言ってんのが分からないのかよお前は!」




起き上がった咲耶の叫びで、シリアスぶち壊しなのがお気に召さなかった政宗が全力で返すと、
部屋の中で走り回っていた慶次が「サク!!」と、大型犬よろしく寝起きの咲耶に飛びついた。ぎゅうぎゅうっと抱きしめる慶次は心底嬉しそうだ。


「良かった!元気でさ!サクの寝顔可愛いかったけど…やっぱりアンタは元気に笑ってて欲しいよ!」


と輝かしい笑顔で語るが、


「ほぅ…まさか寝顔を見るためだけに添い寝していたわけでは無いだろう?慶次?」


輝かしい拳を振りかざした家康に、慶次は慌てて咲耶から離れたのだった。



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