朔の夜に咲く 2 孫市の合流の後、 「見えました!此処に咲耶ちゃんが……って、わわっ!皆さん何してるんですか!」 「ここ、眩しいね小鳥さん…きらきら……してるの…」 寝間着の鶴姫とお市が合流し、一気に騒がしくなる部屋に、家康は楽しげに目を細めていた。 とても、明るく和やかな空気。家康が望む未来に近い、その光景に図らずも笑みがこぼれる。(逃げ回る慶次は、必死そうだが) そんな中、伊達政宗だけは部屋の隅に佇み未だ眠る少女のそばを離れない。 視線がかち合うと、彼は家康を睨みつけてきた。 「はは、龍に睨まれてしまったな」 睨み続ける政宗に、臆す事なく近づく家康は膝を折った。規則正しい寝息をたてる少女を覗き込もうとして、 「……わかってねぇな。気安く近寄るなって意味だぜ?you see?」 鞘に入ったままの刀を向けられて、家康は動きを止めた。 「…蛇に睨まれたところで、儂は蛙ではないからなぁ」 にこり、と微笑んで皮肉のひとつを吐く。ある程度距離をおいて家康は胡座をかいた。 部屋ではまだ、賑やかな声がしている。 「なんだ?儂が怖いか独眼竜?」 「shut up!下心が見え見えなんだよ……」 睨みあい火花を散らせていた二人だったが、眠っていたはずの咲耶の異変に思わず目を見開いて、「咲耶!?」と名を呼んだ。 彼女の、染め直した黒髪が。 闇夜に桜が咲くように、艶やかな薄紅に染まっていく。乾いた布に水が浸透するように。 彼女の髪は、桜色になっていた。 「いったい、これはどういう…」 家康が驚きを隠さないまま、政宗を見やったが当の政宗は緊迫したような表情で、彼女の体を揺さぶった。 「咲耶!起きろ!……頼む…!」 「っ…う、」 勢いよく揺さぶられたせいか、彼女は苦しそうに呻いてから… 「……め」 「…目?」 「三成めぇええぇ!いきなり何するかと思えば私のファースt……いや、待てよそんなのとっくに奪われてたじゃん。 けど深いのは別だよね!ていうか私寝過ぎだよね主人公なのにぃいいっ!」 「いきなり叫ぶなっていつも言ってんのが分からないのかよお前は!」 起き上がった咲耶の叫びで、シリアスぶち壊しなのがお気に召さなかった政宗が全力で返すと、 部屋の中で走り回っていた慶次が「サク!!」と、大型犬よろしく寝起きの咲耶に飛びついた。ぎゅうぎゅうっと抱きしめる慶次は心底嬉しそうだ。 「良かった!元気でさ!サクの寝顔可愛いかったけど…やっぱりアンタは元気に笑ってて欲しいよ!」 と輝かしい笑顔で語るが、 「ほぅ…まさか寝顔を見るためだけに添い寝していたわけでは無いだろう?慶次?」 輝かしい拳を振りかざした家康に、慶次は慌てて咲耶から離れたのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |