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朔の夜に咲く


【信州】

良い調子で南下している。
伊達政宗は、しかし複雑な心境でもあった。
長時間、二人きりで密着して。幸せと言えばまぁ幸せなのだが、つまりは、おあずけ状態だ。

今は夜。

理性がぶっち切れたら、まぁ成るように成る訳だが。
「……」


奥州に置いてきた家臣は、何気に『それ』も心配していた。
流石は小十郎。


「無理だ」


筆頭は、吹っ切れたらしい。
脳内の小十郎が「考え直して下さい」と叫ぶが。耐えんのは性に合わねえ。
おあつらえ向きに、獲物(と書いて咲耶と読む)は右隣で眠っている。
既成事実、という四文字熟語が見えた気がした。





「で、喰っちゃうわけか独眼竜」

「真田の忍か、悪ぃが退け。俺は今気分が良いんだ」

「いや、それは無理。だってさぁ…」


佐助は、片手で何やら空に投げた。ーーーピカっと空中で爆発する。



「旦那がさぁ、此処を通すなっていうからさ」



「伊達、政ぁ宗ぇえぇぇぇ!」

木々をなぎ倒し、真田幸村が勢いよく槍をふるって現れた。


「いつもなら、熱き勝負を某と繰り広げんと無鉄砲に戦いを挑んで来られるかと思いきや、まさか素通りされるとは…
見損ないましたぞ政宗殿ぉお!」

「…何気に失礼だな真田幸村。」

「武士たるもの、刃を交えて熱き魂を感じあい己自身を磨き高めあうものと…」



「…その声は、ユッキー…!」


あ、まずい。
伊達政宗は、先ほどまで寝ていた少女を振り向いて「空耳だ」とは言ってみたがフォローにもならない。


幸村が、さらに瞳に炎を纏わせた。

「咲耶どのぉおおっ!」



ぴょーん、という擬音が合いそうな跳躍で幸村は咲耶の元へ降り立った。


「その節は、某の力量及ばず…」

「え、ごめんユッキー?最後に絡んだのいつだっけ?」


幸村、意気消沈。

「あーぁ、消火しちゃったね姫さん。旦那がせっかく出番と台詞貰って喜んでたのに」


「あれ、なんでかな佐助。君は結構頻繁に出てるよね」

「だってオレ様、忍びない忍だし?」






「御託はいい、真田の忍…俺達は急いでんだ。やるならさっさと抜けよ真田幸村?」


「でも筆頭、ユッキーの得物槍ですから抜く必要はないんです。」


「お前がちゃちゃ入れっから、話が進まねぇんだよ」


筆頭はため息をついて、私の頭をぽんぽんと叩いた。
佐助が「それもそうだね」と、幸村を向き直る。

「ほら、旦那。姫さん来てんだから」


「む、そうであったな佐助。
ともかく、伊達政宗ぇえ!貴殿を通す訳には参らぬ!」


シャキン、と槍を構えて叫ぶ幸村。
同じように、臨戦態勢に入る佐助。


「オレ様の本職、やっと見せれるなぁ。まぁ、あの大谷の命令っていうのが……、ちょっと気にくわないんだけどさ!」



…大谷?




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