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朔の夜に咲く




【信州(上空)】


「ぎぃいやぁァアアっ!」


グラッチェ!咲耶だよ!
いま、私はーーー


命綱のない、ホンダム的ジェットコースターに乗ってる。そんな気分です。


「いやぁあっ!家康!死ぬわぁあっ!」

「ん?そうか?」


家康はケロッとした顔で、咲耶の体が飛んでいかないように、抱え込んだ。


「そ、それに、寒いし!」

高所、ジェットコースター並早さ。殺す気かーっ
けれど、家康はわざとらしく「ん?なんだ?」と聞き返す。顔が、近くなる。


「っだから、寒い…いや、良いです。ドリームの主人公的カンで、なんだか危険を察知しました」


家康と密着してるだけでも嫌なフラグ立ってるんだぜ!
逃げ場ねぇし!



慶次は、今頃…信州の山中を徳川軍の本隊と一緒に超えている頃だろう。
咲耶も最初は、そうしたかったが徳川が「逃げるかもしれん」と、釘を打ったのだ。
実際、慶次は隙あらば咲耶を連れて逃走しようと考えていた。


「慶次…」


安心できる人だ。
良い意味で。


*****
【信州(山中)】

「へっくしゅん!」


慶次はひとつ、大きなくしゃみをした。その反動で夢吉が落ちそうになる。

「大丈夫ですか、前田殿」という徳川軍の兵の問いかけに、慶次はニカッと笑って、
「はは、恋の噂かねえ!」とその場を和ませた。


えもいわれぬ、緊張感が徳川軍を支配していた。

「…まさか、石田軍が信州に来てるなんてなぁ」


慶次が、ぽつんと呟いただけで
兵達の表情が強張った。


それに、苦笑する慶次。
「さすがは、凶王なんて呼ばれてるだけはある…」


ちょっと前に、ここいらでは伊達と真田が戦ってたらしい。
理由は、実は『咲耶』を巡ってらしいとか、かすがちゃんは言っていた。

それをめがけてか、否か。


関東から、はるばる石田軍はやって来た。
それを知って、真田と伊達は引いた。戦を引くほど、石田軍の名には威力があるらしい。


「こりゃあ、札に『石田』とでも描いて、玄関に飾れば魔除けになるね!」

「キキィ」


浮かれたように話す慶次だが、その頭ではこれからの身のふりを談議していた。

ーーと、


「…!前田殿!あれを…!」


緊迫した、徳川の兵の声に。
慶次は笑顔のまま「なんだい」と視線を向けた。


……あぁ、あの背中は。
いつかの俺に似ていると、

慶次は思った。



山中からの遠目でも、よく分かる。

信州の平野を行くあれは…


「石田三成……
豊臣秀吉の忘れ形見か…」





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