歴史の二面性1
船上で波に揺られまくりな旅もそろそろ終点。もちろん、ラディスロウでちょっとは回復してたリオンも、船に戻ってからは機嫌最悪なワケで。

「とりあえずはお疲れ。ま、帰りも乗んなきゃなんないだろうけど」
「……うるさい、わざわざ思い出させるな……いいか、この事は誰にも言うなよ」
「ってもこの調子だと、バレんのは時間の問題だろ。変に気を張ってる方が余計に体調崩すぞ」
「………」

無視かよ。

『あ、あの、お気遣いはすっごく嬉しいんですけど、ほら、坊ちゃんって強がりでプライド高くて誰かに弱味見せるのが嫌で……って僕が話してる途中なのに立ち去らないでぇぇぇ……』

うん、シャルの声がフェードアウトしていったな。
ここはハンカチーフ片手に見送るべきか。いや、んな事したら、シャルがツッコミ→リオンが抜刀→命の駆け引き(主に俺のみ)→リオンの機嫌がますます降下→さらにおちょくりたくなる俺、という悪循環が……。って、どっちみち俺が我慢すりゃいいだけのハナシか。
だが……ここで引いちゃあ俺じゃねぇ。(黒笑)

「………」

すぅーっと大きく息を吸って……。

「愛してるぜマリアーーーンっ!!」
「……っ!!シェイド、貴様何を……!」
「ばーい、坊ーっちゃーーーん!!」
「今すぐこの世から消え去れッ!!」





とまぁ、そんなささやかな戯れがありながらも、船はようやくカルバレイスの玄関口、チェリクへと入港した。

「よーやく着いたな!……ん?どうかしたのかリオン、えらく疲れてるみたいだけど」
「……お前には関係ない」
『アハハ……お疲れ様です』

そんな二人は放っといて、女の子組プラス何故か俺は華やかに談笑中、

「暑い」
「暑い、ですね」
「あ、つい……」
「え、ちょ……マリーっ!?」

なワケもなく。

「死ぬな……死ぬんじゃない!俺達は共に誓ったじゃないか!あの星に……テラにたどり着くと…!!」
「〇ョ、ミー……次のソルジャーは……お前、だ……(ガクリ)」
「ノッてどうすんのよマリーっ!?」

いやぁ、何か最近皆、頼もしくなってきたっていうか、むしろどっかブッ壊れてきたっていうか。
ま、それは置いといて、こんだけジョークに付き合えるならマリーはまだ大丈夫だな。ついでに律義にツッコんでくれたルーティも。
問題は、

「……フィリア、もしかしてかなりキツい?」
「シェイド、さん……いえ、私なら大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます……」

とは言うものの、本人気付いてないみたいだけで、立ってるのも辛いのか体がグラグラ揺れてる。

『フィリアや、足を引っ張りたくない気持ちも分かるが、我慢しすぎて調子を崩しては元も子もないんじゃぞ?』
「………」

うーん、誰に勝るとも劣らず頑固だな。

「おい、馬鹿やってないで少しは動け。これからバルック基金のオフィスに行って情報を集めるぞ」
「リオン、アンタそのオフィスの場所って知ってるの?」
「いや。だがオベロン社支部でもあるから大きな建物のはずだ。誰かに聞けばすぐに分かる」
「それやめといた方がいいと思いまーす」

地味に挙手して発言。したら、一斉に俺に集まる皆の視線。

「何でだよ、シェイド?」
「だって、俺ら見るからに余所者だろ。ちょっと声かけたところで無視されるのがオチだ。最悪、ケンカ売られでもしたら情報どころじゃなくなる。無駄足だけは勘弁だわ」
「?」

うーん、これは一から説明するべきか?

「カルバレイスに住んでる人間の大半ってのは、天地戦争での敗者の子孫達なんだよ。この大陸も今じゃ馬鹿みたいに暑いだけの厳しい環境になってるけど、元々はここまでじゃなかった。例の敗者側の人間達が、まだ自分達は優勢だと信じきっていた頃に、この地を産業廃棄物の投棄場所にした。もうちょっと内陸の方にあるトラッシュマウンテンなんか最たるものだぜ。その名の通りゴミ山。ま、そんなこんなで、戦争終結後に自分達のやった事を思い知ってもらおうと、敗者組は第二大陸カルバレイスに流刑された……と、こんな事実があるらしいんだが、そんな千年も前の、しかも自分達にとっちゃ汚点だらけな歴史なんて正確に伝わってるわけもない。都合のいいように解釈された歴史ばっかりが残っちまって悲観ぶっていつか勝者側の末裔に復讐してやろうとか思ってくれちゃってるプライドだけが高い奴等の集まりが、今のカルバレイスの住人達なんだよ。だから俺らが声かけても……………って、何だよ皆、暑さで頭やられた?」

とりあえず一気に説明してはみたものの……皆さん一様に呆然とせてません?

「シェイドは本当に物知りだな♪」
「いやぁ、それほどでも……あるけどな」
「いっつもバカばっかりやってるから、シェイドが知識豊富って事たまに忘れそうになるのよね」
「お前なんかと同意見というのは不本意だが……確かにな」
「とにかく、今は誰かに道聞いて無駄に神経磨り減らすよりも、足使って探せって事だ。とっとと行こうぜ」

というわけで、俺は前と同じように、フィリアからクレメンテを取り上げてずんずん進む。

「え、シェイドさん!?」
「ずっと持って歩くには重いだろ。移動の時は俺が預かっとくよ……まぁ、鍛えてマッチョになりたいなら別だけど」
『……すまんシェイド。としてはフィリアにはいつまでも華奢でいてもらいたい』
「うん、そーゆう事らしい」

まぁ、ね。どんなフィリアもフィリアだとは思いますよ。でもやっぱ俺だって、できれば今のままな華奢で可憐で頼りなさの中にも芯の強さが垣間見えるフィリアでいてほしい。

「でもさ、山になるほどのゴミを捨てるって、一体どうやったんだろうな。普通に投げたって届かないだろ……あ、もしかしてわざわざ登って捨てたとか!」

……スタンってどうしてこう人が考えないような事を思い付くかな。
ごくたまに的を得すぎた発言するからちょっとビビるぜ。しかもそれがかなり重要ポイントだったりするし。

「空から……」
「空?」

でも、俺は言いたくない。このまま二度と知られる事もなく、悲しみに満ちた真実は海底に沈んでてほしいから。

「空からでも投げ捨てたんじゃね?」
「シェイド?」
『………』

その為に、俺は走り続けてるんだから。



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