3 「ここ、は……」 ジューダスが目を覚ますと辺りは薄暗くて、開いた窓からは月の光が差し込み、心地よい風が吹き込んでいた。ゆっくりと体を起こすと、額に置いてあったのか、濡れたタオルがぽろりと落ちた。 『坊ちゃん、目が覚めたんですか?』 「シャル?ここは……エルレインは……」 その時になってようやく、自分の仮面が外され、素顔をさらしている事に気付いた。 慌てて辺りを見回せば、寝ていたベッドの脇にその所在を確認し、ほっと息をつく。 『誰も見てないから大丈夫ですよ。この部屋にはレイスしか来ませんでしたから』 「何があった?」 ジューダスは、エルレインの力で飛ばされた後の事を話し始めた。 「そう、か。面倒をかけたんだな」 仮面を着け、シャルティエを手に取って立ち上がる。 『どこへ?』 「レイスのところだ。これからについて決めておかなければ」 『なら、たぶんナナリーって人の家にいますよ。自分達の事を説明しなきゃって言ってましたし』 そう聞いて、シャルティエの案内の元、村の奥の家へと向かった。 ここですよ、と言われて、その中へ入ろうとした時、レイスらしき話し声が聞こえてきた。 「……なら知ってるだろ。二人の聖女の内の一人、エルレインを」 ちょうど自分達の説明をしている所らしい。ジューダスは、キリのいいところで入ろうと、壁を背にして座り込んだ。 「ああ。神フォルトゥナが、人々に幸せをもたらすために生み出した存在ってヤツだろ。それがどうかしたのかい?」 「ま、簡単に言やぁ、俺達はエルレインのやり方ってのに逆らったんだよ。で、怒った聖女サマに例の神の力とやらで時空間を吹っ飛ばされた、と。ちなみに今は、神の眼の騒乱から何年だ?」 「何言ってんのさ。二十八年、常識だろ?」 「俺達がいた世界では、あの騒乱からちょうど十八年が経った所だった」 「………!!」 「俺達の時代のハイデルベルグから、十年の時を越えたカルバレイスまで飛ばされたってワケ。とんでもねぇ話だよな」 「……で、あと二人の仲間ってのは?」 「ああ、カイルとリアラっていうんだけどさ、俺達と同時に飛ばされたんじゃないから、おそらくズレが生じてると思う。それが場所に現れるか、時間に現れるか、はたまた両方かは分からない。でも、そんなに引き離されてはないと思うんだ」 「信じらんないよ……」 「そりゃそうだ。急に信じてくれとは言わねーよ。今は寝てるけど、あの二人が起きたら話聞いてみな。気がすむまで質問すりゃいい。返ってくるのは、俺が話したのと同じ内容だ」 「いや、別にあんたたちを信用してないわけじゃないんだ。ただ、あまりに途方もなさすぎて……」 「十分。仲間と合流するまでこの村に置いてくれたら、それだけでこっちは助かる。カイルたちも俺達を探すだろうし、下手にお互いが動くと一生擦れ違うことになりそうだ」 「それは構わないよ。この村は医者がいなくて困ってたから、アンタみたいに色々と詳しいヤツがいてくれると助かる」 「目はコレだけどな。知識だけなら無駄にあるから」 「人手も足りないからねぇ。あの二人も目を覚ましたらバリバリ働いてもらうよ!」 「え……っと、病み上がりだから程々にな?」 「ア、アハハッ、分かってるよ!」 「(ホントかよ……)とにかく、そういうわけだから。俺ちょっと二人の様子見てくるわ。ジューダスは大丈夫だろうけど、ロニは目が覚めた途端にパニクりそうだし」 そう言ってレイスが立ち上がるのを合図に、ジューダスも腰を上げた。 『わざわざ話し合うまでもなかったですね?』 「………」 その時、レイスがひょっこりと顔を覗かせた。 「っつーワケだから。明日からバリバリ働け」 「気付いていたのか……」 「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんの。視覚以外の情報だけでここまで生き抜いてきてんだぞ?」 「確かに……納得するしかないな」 「体調に問題ないなら、ちょっと付き合え。お前に話しておかなきゃならない事がある」 いつになく真剣な声音で言ったレイスを追いかけて、ジューダスも歩き出した。 [back][next] [戻る] |