「この先に宝が?」

だが、緊張の面持ちで進んだカイル達が見つけた物は小さな薄汚れた箱一つきり。

「これが、宝なの……?」
「この鉱山だけで採掘できる特殊な鉱石だ。状態を安定させるためそれに入っている」
「特殊な鉱石?それじゃ、ただの石っころなの?」

落胆も露にカイルはへたりと座り込んでしまった。ロニもリアラも疲れたのか、続いてしゃがみ込む。

「……お前達、ベルクラントは知っているな」
「ああ、知ってるさ。天空都市ダイクロフトにあったっていう、兵器の事だろ?地殻にエネルギーをブチこんで破壊するっていう、とんでもねぇシロモノだ」

ロニが、さも思い出したくないと言わんばかりの声で答えた。

「その石は、ベルクラントに使われていたレンズの力を増幅させる石だ」
「えっ!?それじゃあ、これさえあれば……」
「そうだ。もう一度ベルクラントが作れる。街一つ軽く吹き飛ばせるほどの兵器が、な」

その時、今まで黙っていレイスが声を発する。

「でも、その石の加工方法を調べていたオベロン社はもうなくなっちまった。だからベルクラントは作れない……もちろん、他の物も」

最後の方は声が小さくて仲間達には聞き取れなかった。

「はあ、お宝ってこんな物騒なモンかよ。全く、オベロン社ってのもロクな事しやがらねぇな……」

取るもんも取ったし、帰ろうぜー、とロニが立ち上がる。他の二人もそれに続くが、ふとリアラが何かに気付いた。

「……ねぇ、あっち、明るくない?」
「たしかに……まだ何かあるのか?」

どうせここまで来たのだからと、光の差し込んでいる方へと近付いて行った。
そこに広がっていたのは。

「キレイ……」

状況の分からないレイスにリアラが説明する。

「岩の切れ目から光が差し込んでて、ここだけ他より明るいの。水も流れてるから、花も咲いてて……」
「へえ……」

ジューダスは一人奥へ行き、そこにあった大きな岩に、そっと手を触れる。

「これは……!」

そして、突然笑い出した。めったに笑うことのない彼のそんな姿に、ぎょっとしてカイル達はそちらを向くが、注目を浴びている本人は未だ肩を震わせ、笑い続けている。

「ジューダス?」
「……何て皮肉な……こんなものがあるとはな……」

そう言った視線の先を見てみると、大きな岩に何か文字が刻まれているようだった。
ロニは、レイスのためにもそれを声に出して読み始める。

「えっと…『この鉱山にある鉱石を使えば、レンズの力を大いに高めることができるようになります。そうすれば、生産力は増大し、すべての人々が豊かな暮らしを送れるようになるでしょう』……」

そこに残されていたのは、ひたむきに街の事を想う言葉。そして、破壊しかもたらさないと思われた石を、奇跡の石と呼ぶ美しい心。

「……『これはきっと、神様からの贈り物なのでしょう。ですから、この場所を壊さぬよう、大切に守っていって下さい。この場所を守ることがそのまま、ノイシュタットの人達を守る事になるのですから。』……」

そこでピタリとロニの声が止まった。

「どうした?」

続いて読み始めたのは、カイルだった。

「……『これを読む、未来の誰かへ。オベロン社ノイシュタット支部長、イレーヌ=レンブラントより』」

ロニが黙ってしまったのはおそらく、こんなにノイシュタットの事を大事に思っていた相手が、自分の毛嫌いするオベロン社の人間だったからだろう。

「……鉱石は兵器だけじゃく、工場や船にも使える。俺達はそのことに頭が回らなかったってことか」
「ま、ロニだしな」
「レイスっ!!せっかく人が感動してんのに水をさすようなこと言うんじゃねぇッ!」
「ははっ、悪い。でもさ、たとえ頭が回ったって、その道を選ぶとは限らないだろ。実際、彼女は地上を見限った」

頑張っても、頑張っても変わらなかった。そんな世界に。

「……オベロン社も、イレーヌも、理想の実現を急ぐあまり、即効性を求めて劇薬を選んだんだ」
「それが神の眼の騒乱の真実、か」
「でも、きっとイレーヌさんの思いは本物だわ。だって、未来の事を考えて、メッセージを残してくれていたもの。ここが、本当の宝物なのよ……」
「そうだね!きっと、そうだよ!」

レイスは、この時ばかりはこの光景が見れないのが悔しかった。せめて、とばかりに石碑に刻まれたメッセージを指で辿る。

「本当の宝、か。安っぽいセリフだな……」
「へっ!うーるせぇよ……」
「……だが、安っぽいのもたまにはいい」

悔しさはあるけれど、仲間達の雰囲気にその想いも紛らわされる。

「イレーヌさんか……きっと美しい心の持ち主なんだろうなぁ。俺、感動しちまった……あ?何だよ、皆驚いたような顔して」
「……女性の外見だけではなく内面を見るという概念が、お前にあるのを知って驚いているだけだ」
「失礼だな〜。こう見えても俺は美しいものには弱いんだぞ?」
「美女とか……」
「美女とか……」
「主に、美女とかにな」
「ていうか、それ以外ないだろ」
「な、なんだよチキショーッ!」

そんな風に笑いながら、ノイシュタットへの道を戻って行った。








ほら、俺が干渉しなくたって、皆がいい方に向かってる。
例えば、こんな風に些細な事で笑いあったり、無駄だと思われた回り道も無意味じゃなかったり、さ。
だから、もう少しだけこのままでいいよな。
まだ、頑張らなくったっていいよな。
……あの時代に、帰るまでは。



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