その名の由来1
「……っていうわけで、俺達ここに来たんだ!」
フィッツガルド大陸の北端に位置するリーネの村。
突然やって来たにも関わらずカイル達を快く受け入れてくれたリリスは、これまであったことを一通り聞き終え、感心したように溜め息をもらした。
「そう、大変だったわねカイル。それに皆さんも……」
「いやあ、俺達はどうってことないです。それより急に押しかけちゃって、リリスさんの方が大変かなって……」
「ああ、いいのよ!ここは見ての通り何にもない村でしょ?たまにこれくらいのハプニングがあるくらいで丁度いいのよ……ま、兄さんはそれに絶え切れなくてここを出て行っちゃったけどね」
リリスはそう言って肩を竦める。
「リリスおばさん、一つ聞いてもいいかな?その、父さんの事なんだけど……」
「分ってるわ。小さい頃どんな風だったか知りたいんでしょ?」
「随分と盛り上がってるな」
奥の部屋からレイスとリアラが顔を出した。
「二人とも寝てなくていいの?」
「ちょっと休めば治るって言ったろ?ま、俺はもう一晩休めば全快ってとこかな。リアラは?」
「私も。今夜ぐっすり眠ったら明日の朝には出発しても大丈夫だと思うわ」
その返答に安堵の色を浮かべるカイル達。
「今ね、リリスおばさんに父さんの話を聞こうとしてたんだ。レイスもリアラも大丈夫そうなら一緒に聞こうよ!」
「へー、面白そうじゃん。聞きたい聞きたい」
「私も。ご一緒させてもらってもいいかしら」
カイルに手を引かれるまま、二人は空いている椅子に座った。
「兄さんはね、そう……とにかくねぼすけさんだったわ。起こすのはあたしだったから、毎日そりゃもう大変だったの。大声で叫んだり、毛布を取ったり、ほっぺたを抓ったり。でもね、それでも起きないのよ。で、最後にはフライパンを持ち出しておたまで乱れうちするの。秘技、死者の目覚めー!ってね」
それを聞いて苦笑したのはカイルとロニだった。クレスタでは見慣れた光景だったからだろう。
「後はいたって普通の子供だった。夢なんかも意外にちっちゃくって……お城の兵士になりたい、なんて言ってたっけ」
「え!?英雄になりたいとは言ってなかったの?」
「ふふっ!英雄なんてホントに、いつの間にかなっちゃった、ってカンジよ?きっと世の中の人が聞いたらがっかりするでしょうね。でも、私は兄さんらしくていいと思うけど」
「そっか、そうだったんだ……」
リリスは何だか少し落胆した様子のカイルに、でも、と話を続けた。
「兄さんはね、自分なんかよりもずっと英雄と呼ばれるにふさわしい人がいたって、時々零してたわ」
「え、誰なの?」
「皆さんも知っているでしょう?十八年前に鬼神と呼ばれた剣士、シェイド・エンバースを」
「「シェイド・エンバース!?」」
「ぶふっ!」
それを聞いた瞬間、お茶を飲もうとしていたレイスは思わず吹き出しそうになった。
「レイス、だ、大丈夫?」
「げほっ、ごほっ……あー、うん、まさかここでシェイドの話が出てくるとは思わなかったから、ちょっとビックリして」
そんなレイスの焦りなんて露知らず、カイルとロニは興奮したようにリリスとの会話に盛り上がっていた。
「そりゃ知ってますよ!シェイドさんっていやぁ、俺たちの孤児院に大量の寄付金を送ってくれた大恩人ですから」
「でも母さん、シェイドさんの事あんまり話してくれなかったね。俺たちもの噂に聞くくらいのことしか知らないし……」
「あら、そうなの?兄さんも旅の仲間の事はよく喋ってたけど、旅の中で何があったのかはほとんど話してくれなかったの。きっと悲しい事が多すぎたんでしょうね……」
そう言って目を伏せた。
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