3 「今から、ここを発つ。色々とお世話になりました」 「おぉシェイド殿、もう行かれるのか。チェルシーがゴネたんじゃないのか?」 アルバさんが悪戯っぽく笑う。なんだ、わってたのかと思わず肩の力が抜けた気がした。 「ああ。だけど貴方の孫は、強い子でしょう?」 「……わかっておるよ」 そうして、二人で顔を見合わせて笑った。 こんな俺たちはもしかしたら、俗に言う似た者同士なんじゃないだろうか。 守りたいもののために道化の仮面を被り続ける所なんかが、特に。 「そうじゃ、餞別にこれを持って行け」 そう言って渡されたのは、かなり立派な、俺でさえそこに秘められた力を感じる事のできるような弓。 「冗談。こんな大層な物、もらえるわけないだろ。それに俺は剣士だぞ?貴方の弟子に与えた方がいいに決まってるじゃないか」 「じゃが、弓は扱えるじゃろう?……いや、扱えぬ武器はないと見える。この弓はウッドロウが扱うには軽過ぎ、チェルシーには力が足りん。お主が一番相性が会うと思ったんじゃ」 さすがアルバ=トーン。戦闘を見てたわけでもないのに気付きやがった。 「この狸ジジィ……俺よりよっぽど厚い面の皮してやがる」 「ひよっこなんぞに負けてられんからの」 そしてまた、笑い合う。今度は声を上げて。 「セレスティアルスター、受け取ってくれるな」 「この弓に叶う力を身に付けられるよう精進するよ。……では弓匠アルバ、またお会いしましょう」 何故か、もう二度と会う事がない予感がしている。根拠なんて何もないが、もはやこれはカンだ。 それをアルバさんも気付いているだろう。でも、そうと分っていて、俺は再会を願う言葉を口にした。そして彼も、 「あぁ、また来い。いつでも待っておるぞ」 俺と同じ仮面を身に着けてくれた。 「う〜っ!寒いよ〜」 「……スタン、それもう十四回目。次言ったら罰ゲームだからな」 「ハハハ、慣れない者にはファンダリアの気候は厳しいだろう。シェイド君は大丈夫なのかい?」 「こー見えても結構丈夫なもんで。……どこぞの田舎者と違って(ボソ)」 「Σうっ……悪かったなぁ」 今俺達は、ウッドロウの案内の元、ファンダリアの山道を下り中。ダリルシェイドに向かうため、ここから最も近い街ジェノスに向かっているのだ。 「それにしても鳥が多いな……ちょこまかとうっとおしい」 さっきから出て来るのは、カンバラーベアとスノーバニーとピヨピヨ。獣は比較的動きも遅くて剣も当たりやすいが、飛んでる奴はそうもいかない。しかも運の悪いことに、鳥と遭遇しまくり。誰かなんか俺に恨みでもあんのか? 「ためしにやってみるか……」 飛んでる奴には飛び道具の方が当たりやすい。 俺は、マントの下から腰にかけていた弓を取り出し、構えた。 「スタン!そこらの熊、ヨロシク」 「え?わ、わかった!!」 そしてウッドロウと同じくらい後ろに下がり、その場に膝を付く。 「君は……弓もできたのかい?」 「付け焼き刃だけどな」 そして矢を番え、斜め上に狙いを定め、 「雹雨」 この技は、当たりはいいがいかんせん威力が劣る。でも今回は、この弓がそこをカバーしてくれるはずだ。 そして放たれた八本の矢は、見事にそこにいた鳥を全滅させた。 「俺の行く手を邪魔するなんざ百年早ぇんだよ」 そこに、カンバラーベアを倒したスタンが駆け寄って来る。 「すごいな、シェイド!弓が使えるなんてさ!!」 そんなまるで自分の事のように喜ぶなよ。うわ、照れる。 「別に凄くなんてないさ。ウッドロウだって剣はできるだろうし」 王族の嗜みとして。 「Σええっ!そうなんですか!?」 あ、ウッドロウがちょっと困ってる。 悪かったって、俺もあんまり突っ込まれたくなかったからさ……と、一応は目で謝っておいた。通じたかは分からないが。 「ところでシェイド君、その弓はどうしたんだい?会った時には持ってなかったように思うんだが……」 さすが、よく覚えてたな。 「ああこれ、あんたにもチェルシーにも合わないだろうからってアルバさんがくれたんだ」 「ふむ……確かに私ではこの弓の軽さを生かす事はできないな……」 「そういうこと。あんたにはきっともっといい物くれるだろうよ。……おっ、ようやく着いたか」 そうして俺達は、セインガルドとファンダリアの間に位置する、国境の街ジェノスに辿り着いた。 ※チェルシーの性格は作者の捏造です。 [back][next] [戻る] |