「今から、ここを発つ。色々とお世話になりました」
「おぉシェイド殿、もう行かれるのか。チェルシーがゴネたんじゃないのか?」

アルバさんが悪戯っぽく笑う。なんだ、わってたのかと思わず肩の力が抜けた気がした。

「ああ。だけど貴方の孫は、強い子でしょう?」
「……わかっておるよ」

そうして、二人で顔を見合わせて笑った。
こんな俺たちはもしかしたら、俗に言う似た者同士なんじゃないだろうか。
守りたいもののために道化の仮面を被り続ける所なんかが、特に。

「そうじゃ、餞別にこれを持って行け」

そう言って渡されたのは、かなり立派な、俺でさえそこに秘められた力を感じる事のできるような弓。

「冗談。こんな大層な物、もらえるわけないだろ。それに俺は剣士だぞ?貴方の弟子に与えた方がいいに決まってるじゃないか」
「じゃが、弓は扱えるじゃろう?……いや、扱えぬ武器はないと見える。この弓はウッドロウが扱うには軽過ぎ、チェルシーには力が足りん。お主が一番相性が会うと思ったんじゃ」

さすがアルバ=トーン。戦闘を見てたわけでもないのに気付きやがった。

「この狸ジジィ……俺よりよっぽど厚い面の皮してやがる」
「ひよっこなんぞに負けてられんからの」

そしてまた、笑い合う。今度は声を上げて。

「セレスティアルスター、受け取ってくれるな」
「この弓に叶う力を身に付けられるよう精進するよ。……では弓匠アルバ、またお会いしましょう」

何故か、もう二度と会う事がない予感がしている。根拠なんて何もないが、もはやこれはカンだ。
それをアルバさんも気付いているだろう。でも、そうと分っていて、俺は再会を願う言葉を口にした。そして彼も、

「あぁ、また来い。いつでも待っておるぞ」

俺と同じ仮面を身に着けてくれた。






「う〜っ!寒いよ〜」
「……スタン、それもう十四回目。次言ったら罰ゲームだからな」
「ハハハ、慣れない者にはファンダリアの気候は厳しいだろう。シェイド君は大丈夫なのかい?」
「こー見えても結構丈夫なもんで。……どこぞの田舎者と違って(ボソ)」
「Σうっ……悪かったなぁ」

今俺達は、ウッドロウの案内の元、ファンダリアの山道を下り中。ダリルシェイドに向かうため、ここから最も近い街ジェノスに向かっているのだ。

「それにしても鳥が多いな……ちょこまかとうっとおしい」

さっきから出て来るのは、カンバラーベアとスノーバニーとピヨピヨ。獣は比較的動きも遅くて剣も当たりやすいが、飛んでる奴はそうもいかない。しかも運の悪いことに、鳥と遭遇しまくり。誰かなんか俺に恨みでもあんのか?

「ためしにやってみるか……」

飛んでる奴には飛び道具の方が当たりやすい。
俺は、マントの下から腰にかけていた弓を取り出し、構えた。

「スタン!そこらの熊、ヨロシク」
「え?わ、わかった!!」

そしてウッドロウと同じくらい後ろに下がり、その場に膝を付く。

「君は……弓もできたのかい?」
「付け焼き刃だけどな」

そして矢を番え、斜め上に狙いを定め、

「雹雨」

この技は、当たりはいいがいかんせん威力が劣る。でも今回は、この弓がそこをカバーしてくれるはずだ。
そして放たれた八本の矢は、見事にそこにいた鳥を全滅させた。

「俺の行く手を邪魔するなんざ百年早ぇんだよ」

そこに、カンバラーベアを倒したスタンが駆け寄って来る。

「すごいな、シェイド!弓が使えるなんてさ!!」

そんなまるで自分の事のように喜ぶなよ。うわ、照れる。

「別に凄くなんてないさ。ウッドロウだって剣はできるだろうし」

王族の嗜みとして。

「Σええっ!そうなんですか!?」

あ、ウッドロウがちょっと困ってる。
悪かったって、俺もあんまり突っ込まれたくなかったからさ……と、一応は目で謝っておいた。通じたかは分からないが。

「ところでシェイド君、その弓はどうしたんだい?会った時には持ってなかったように思うんだが……」

さすが、よく覚えてたな。

「ああこれ、あんたにもチェルシーにも合わないだろうからってアルバさんがくれたんだ」
「ふむ……確かに私ではこの弓の軽さを生かす事はできないな……」
「そういうこと。あんたにはきっともっといい物くれるだろうよ。……おっ、ようやく着いたか」

そうして俺達は、セインガルドとファンダリアの間に位置する、国境の街ジェノスに辿り着いた。





※チェルシーの性格は作者の捏造です。



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あきゅろす。
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