「チェルシー」

だから、優しく頭を撫でてやりながら、そっと声を掛ける。

「さっきはゴメンな。ちょっとびっくりしただけだ」

そしてしゃがみ込んで、しっかりと目を合わせて、話をする。

「チェルシーのそれは、気持ち悪くなんてねぇよ。だって、立派な長所だからな」
「長所……?」
「そう。人の顔を見て考えてる事が分かるっていうのは、洞察力が優れてるからだ。それは、誰にでもできる事じゃない、すごい事なんだぜ」
「どーさつりょく……」
「だから、チェルシーは卑屈になることなんて一つもねーんだ。胸張ってろ」
「ひくつ……」

……と、ここまで一気に言ってみたけど、様子を見る限りなんかちゃんと分ってんのか心配になってきた。

「俺の言った事、分かったか?」
「あの……どーさつりょくと、ひくつってどういう意味ですか?」

正直でよろしい!が、意外にも分かんない言葉があったんだな。
無駄に博識なんだと思い込んじまってた。

「洞察力は、物事をよく見通す力、見抜く力。卑屈は、自らを卑しめるいじけたさまであること(岩波書店:広辞苑より一部引用)」

子供の疑問はほっといちゃいけないから、俺も懇切丁寧に教えてやる。
するとチェルシーは、うーん、と考え始めた。さっき俺が言った事と教えてもらった言葉の意味とを組み合わせているんだろう。
しばらくして、ぱぁっと顔を明るくさせる。

「分りましたぁ!洞察力が優れてるのは、チェルシーのいいところなんですね!」
「そういうこと。じゃ、お迎えも来た事だし、もう帰るか」

そして振り向いた先には、寝起きにしては元気そうなスタンとウッドロウの姿。
ようやく起きたかこの寝ぼすけめ。丸一日爆睡しやがって。

「シェイド、探したよ。起きたら姿が見えないからさ」
「そりゃ24時間眠り続けたおまえの側にずっといられるわけないだろ。俺だってそこまで暇じゃないさ」

これでも12時間までは頑張ったんだ。でもさすがにそれが限界だった。

「う、ゴメン………」
「まぁ、いいけどさ。それよりスタン、もう体の調子いいのか?できたらすぐにでも街に出たいんだけど……」
「あ、うん。その話をしようと……」
「シェイドさん、行っちゃうんですかぁ?!」

と、会話を続けようとしていたところ、スタンを吹き飛ばす勢いでチェルシーが迫って来た。
その顔がかなり悲痛な表情をしてるのは気のせい……じゃないだろう。

「ゴメンな、チェルシー。でも、これは俺の仕事なんだ。……きっとまたすぐに会いに来るから」

それでも、膨れっ面をしたチェルシーは、首を縦に振ろうとしない。

「ひとまず、小屋に戻らないか?ここに長居しては風邪をひいてしまう。モンスターもいるし……ね」

ウッドロウの助け船のおかげで、なんとか移動することには成功。だけど、道中何の会話もなく、四人の雰囲気は限り無く重苦しかった。
そして小屋に着いて、俺が何か言おうと口を開いた時。

「……わがまま言って、ごめんなさい」

いきなりチェルシーが謝った。

「チェルシー?」
「私、自分のことしか考えてませんでした。シェイドさんのおうちには、シェイドさんを待っている方もいらっしゃるんですよね。その方達もきっと、寂しいですよね」

そう言って、ギュッと拳を握る。
こんな小さい子にちょっとしたわがままも我慢させるのは心が痛いが、割り切らなきゃいけない。
せっかくチェルシーが自分の欲を押さえ付けてまでの申し出も無下にしたくはないし。

「ゴメンな。分ってくれて、ありがとう」
「では、行こうか。街までは私が案内することになっているんだ」
「ウッドロウさんがこう言ってくれたから、お言葉に甘えさせてもらったんだ。勝手に決めてゴメンな」

うまく話がまとまった所でウッドロウが名乗りを上げた。それにチェルシーがまた頬を膨らませる。

「えー!ウッドロウ様も行っちゃうんですかぁ?!」

でもそのすね方が、さっきの俺に対してとは違って、ノリが軽い気がする。
チェルシーってウッドロウの事好きだったよな?……なんか位置付けが俺以下になってないか?

「私は、シェイドさんとウッドロウ様のお帰りを、いちじつせんしゅうの想いでお待ちしておりますので!」

いや、だから俺を優先させてるのは気のせいじゃないだろ、もはや。

「俺、アルバさんにも挨拶してくるわ。すぐ済むからちょっとここで待っててくれないか」

そう言って小屋への階段を駈け登る。
暖かく火のたかれた家の中に入ると、アルバさんはダイニングでお茶を飲んでいたようだった。



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