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劣情
2
単純に、好きになったとかたづければたやすい、なんてことはない出来事。
優にとって、恋とは、そんなたやすいものだ。
誰かを好きになって、誰かを愛して、誰かと結ばれたら、それはきっと最高のことで、誰かを愛したまま、その人が死んだら、それはもっと幸せなこと。
そんな、ことを、昔の人が言っている。

「あの人が好き、大好き」
「そうか」
「だってかっこいいんだもん」
「そうか」
「お前もかっこいいけど、先輩のほうがかっこいい」
「・・・そうか」

優は、周りを見ない人間だ。
それは、愛されていることに気が付けない人間だ。
今も、傍で見守る優しいまなざしに、気が付かない。
いつだって傍に居て、慰めてくれた親友の、好意に、気が付けない。

「お前は、まっすぐに・・・その人を愛してるんだな」
「・・・?どゆこと?」
「こっちのはなし、いいよ、お前は、そのままでいてくれ・・・俺のために」

後半はひどく小さい声だったのでクラスメイトの騒々しい笑い声にかき消され、彼の願いは、優には届かなかった。

「ねぇ、志茂」
「?」
「俺ね、先輩は好きだけど、どうにかなりたいわけじゃないんだ」
「そうか」
「だって、傍にはいつも志茂がいるし、寂しくないからね」
「そうか」
「恋人って、温もりがほしい人間、というか、人肌が恋しい人が作るものでしょ?俺、志茂いるから平気だし」
「そうか」
「うれしい?」
「・・・ああ」
ふふ、と優が笑った。
彼は鈍感な男で、人の好意には気が付かない。
だからこそ、彼は気に入った人間に、嫌われないように、立ち回る。
優は、志茂の好意には気が付かない。
気が付けない。
だから今日も、傍に彼がいることに安堵して、問うのだ。
俺はお前がいればいいと。
そうして彼が、うれしいと答えれば。
二人は明日も、親友でいられるのだ。





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あきゅろす。
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