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優しい愛し方
6
征生に連れられ、二人が入ったのは地元でも有名なおしゃれな店だった。
二人は会話もなく窓際の席に腰掛、コーヒーを注文した。
注文を聞きにきたウェイトレスは見目麗しい二人の姿に目をハートにしていたが本人たちは気にしていなかった。
また、周りにいた他の客も目がハートになっていたが、やはり二人が気づくことはなかった。
「で、本題は?」
「ああ、お前、ミキが好きなんだろう?アイツはやめたほうが良い」
「はっ、なに?お前にしては珍しく嫉妬か?」
征生の言葉に郁は嘲笑を浮かべた。
しかし、そんな郁の様子に征生は腹を立てた様子はない。
「勘違いするな、俺は親切心でお前にいってるんだ、あんな面倒臭い男はやめたほうが身のためだ」
征生の眼は何処か遠くを眺めていた。
郁は黙って彼の忠告を聞く。
「お前は今、誰よりあいつに近い位置にいる、だが、俺からいわせれば、その位置はあまりに危ない場所だ、分かるか?今は分からないかもな、だが、火傷してからじゃ遅いんだよ、俺はそれに気がつかず、いつの間にか、火達磨になっていた・・・今ならまだ間に合う、離れろ、あいつの傍は、俺たち人間には辛すぎるんだ」
「お前、何があったんだよ、御木と」
「何もないさ、何も起こさせてくれなかった、あいつは俺を近づけさせなかったからな、そこを無理やり近づいた、だからこんなことになった」
郁は身震いした。
目の前のこの男は、郁の想像をはるかに上回る形で、御木を愛している。
それが破壊を呼んだ。
御木が恐れた愛を、今目の前で本人が雄弁に語っている。
何がそこまで、彼を苦しめたのか、彼らは何にとらわれ、お互いを苦しめているのか。
当事者ではない、郁にはいくら考えても分かるわけはなかった。
「好きだ、愛してる?ふざけるな、そんな言葉は所詮まやかしに過ぎない、本当の愛はなもっとずっと汚く、卑しいものだ、愛されて幸せなんて理想論に過ぎない、現に俺が愛したあいつは幸せとは程遠くいつも苦しんでいた、お前は分からないだろうな、好きな人の幸せを願って、自分をないがしろにするようなものは愛ではない、人間は卑しい、どうがんばったって欲が出る、聖人君子なんざいやしないのさ」
「あいつは愛に飢えている、愛を恐れながらな」
「あいつは愛が何か知っている、だから逃げたのさ、高校生のあの日、アイツは俺に何も言わせることはなかった、いいか、好きだといえるなら、言ってしまえ、そうして振られる事ができたなら、お前はまだ幸せになれる、あの男から離れる事が出来る」
「征生、お前はどうして、そんなに御木を縛るんだ、離してやれよ、もう十分だろ?お前ら二人とも十分苦しんだよ、いい加減誰かと幸せになれよ」
郁の言葉に征生は嘲笑した。
その笑みはまるで自分に向けているようだった。
しかし瞳は真っ直ぐ郁を見ていた。
「だからお前は何を知らないというんだ」
「どういう意味だよ」
「そのままさ、愛が何たるか、お前は分かっていないからそんな事いえるんだ、云っただろう、離れられれば、幸せをつかめると・・・無理なんだよ、どんなに離れようと願ってもそれが出来ないどんどん思いが募って、気がついたら取り返しのつかないことになっている・・・それほどの愛を、お前は知っているか?」
征生はキレイな笑みで、郁に云った。
いっそ残酷なまでに優しい笑みで。
「お前に愛の何が分かる」
このとき郁は初めて征生の心が壊れていることを知った。





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あきゅろす。
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