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優しい愛し方
5
「なぁ、征生」
「なんだ」
カフェテリアのテラスでコーヒーを飲んで読書をしていた征生に話しかけたのはその友人松本だ。
松本は征生の向かい側に腰を下ろすと、噂話デモするように声を潜めた。
「経済学部のお前の同居人いんじゃん?彼あの顔どーしちゃったの?もーキャンパス中の噂彼で持ちきりよ?お前と喧嘩でもしたんじゃないかってさ?」
「くだらん」
「あらあら、我らが法学部のプリンス様は同居人に対してもつめたいのねぇ」
「いい加減にそのうるさい口を閉じろ、殺すぞ」
「あーらこわーい」
「ちっ」
征生は松本に一睨みし、本を閉じた。
松本はそんな征生にニヤニヤした顔を一瞬崩した。
しかし、すぐにまた食えない表情をした。
「お前、最近荒れてんな」
「なにが」
「なにもかもさ、女子どもが怯えてるぜ?」
「は、どーでもいいな」
「お前らしいが・・・、まあいいか、今日どうせ暇だろ?飲みに行こうぜ」
「誰がお前と」
「ていいつつ、来てくれるのを俺は知ってマース」
「ちっ」
征生は松本と暫く取り留めの無い話をした。
何やかんや言いつつ自分に付き合ってくれる征生に松本は微笑した。
ほっとくと何しでかすか分からない危ない友人、それが松本が征生に抱いている感情だ。
いつも何かを目で追っていて、それでいて何かから逃げているような。
征生はいつも寂しそうだった。
松本はそんな彼が不憫で仕方が無かった。
彼女に征生の事を話したら、それは恋だといわれた。
だから松本の見解では征生は誰かに叶わない恋をしているということになっている。
せめて、征生が何か危ない事をしないように、松本は傍で見守る事にした。
征生はそのことに気がついていない。
その瞳はいつも、ただ一人を見つめているから。







「しっかりしろ、この酔っ払い」
「う〜、だめ、吐く」
「おいっ・・・たく、だからお前と飲むのは嫌なんだ」
征生は現在進行形で嘔吐している友人に一瞥をくれ、彼の鞄を漁った。
そして見つけた彼の携帯でとある人物に連絡を取った。
『もしもし?堅ちゃん?』
「よう、久しぶりだな恋」
『もしかして、征生君?どーしたの?まさか堅ちゃんがまた・・・』
「その通りだ」
『あらら、わかったわ、迎えにいくから何処か教えて』
「いつもの飲み屋の裏口」
『はい、わかりました〜、すぐ行くからまっててね』
通話を切って松本に向き直ると彼はいまだ吐いていた。
「はぁ」
征生は呆れて言葉も出ない。
松本と飲みに行くと高確率でこうなる。
だからその対処ももう慣れたものだ。
暫く空を見上げて時間を潰していると、先ほどの電話の女性がやってきた。
この女性は、松本の年上の彼女でOLをしている。
名前は恋。
誰に対しても優しい、おっとりした女性だ。
松本がこんな状態になると必ず、迎えに来て付きっ切りで介抱しているあたり二人の仲は順調のようだ。
「俺は帰る」
「あら、送ってくわよ〜」
「ゲロ臭い男と同じ車に乗りたくない、それに少し酔いを醒ましたい」
「・・・わかったわぁ、気をつけて帰ってねぇ」
「ああ、じゃあな」
征生はそういうと、マンションに向かって歩き出した。
空を見上げると欠けた上弦の月が見えた。




部屋の前に着くと、そこには、高校時代からの友人である郁がいた。
何故郁がここにいるのか、それは考えなくても分かった。
「久しぶりだな、征生」
「郁、お前」
「良いだろ、べつに」
「・・・少し付き合え、話がある」
「わかった」
征生は郁を連れ近くのカフェに行った。
郁は彼が何を言うか、それが何を意味するか、おおよその見当はついていた。






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あきゅろす。
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