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優しい愛し方
4
「おい、御木お前その顔どーしたよ」
講堂で御木は定位置に付くとノートを開いた。
隣に腰をかけるのは御木の親友の郁。
そして御木の異変に気が付いた郁の問に御木は適当に嘘をついた。
「あー、これ?昨日喧嘩に巻き込まれてさぁ」
「喧嘩?あー、確かにお前弱いもんな」
「マジついてなかったわ」
「ふーん・・・お前、嘘下手だな」
「・・・っ」
郁の指摘に御木は固まった。
思わず郁を見上げると整ったその顔は眉間に皺を寄せていた。
「俺にまで嘘つくなよ、御木」
郁は征生と御木の関係を知る高校時代からの友人だった。
だからこそ、御木の嘘を見抜けた。
「い、郁・・・本当に、喧嘩に巻き込まれ・・・」
「本当の事話さないなら、征生に訊くぞ」
「やめろっ・・・わるかったよ・・・話すから・・・ユキは巻き込まないで」
御木は苦い顔をして郁に事の起こりを話した。
「・・・お前、今日覚悟しろよ」
「へ?」
「講義終ったら俺ん家来い、説教だ」
「そ、そんなぁ・・・」
事情を知った郁の機嫌は最低だった。
それだけ御木の事を大事に思っていたからだ。


講義が終わり、二人は並んで郁の住むアパートへ向かった。
その間二人に会話らしい会話は無かった。
御木は郁の顔色を伺ってはため息をつき、郁は御木のそんな様子を気にも留めない。
仲たがいのような微妙な空気は郁の部屋に入ることで終止符を打った。
「ほら、入れよ」
「.....あ、ああ」
御木はまずその部屋のきれいさに驚いた。
郁という人間はけしてずぼらではないが、几帳面でもない。
しかし、そんな彼の部屋はとても整理されてキレイだった。
「きれいだね、郁の部屋」
「お前とは違って片付け位するからな」
「なにそれ、棘あるなぁ」
「はは、すこしは反省しろってことだ」
「・・・何処座れば良い?」
「てきとーに座っとけ」
御木は郁に指示されたとおり、適当に腰掛けた。
すると奥から郁がお茶とお菓子を片手に戻ってきた。
そして御木の反対側に座り、本題に入った。
「お前、何で売春なんかしてんだよ・・・金に困ってんのか?」
「いや、金は関係ない」
「じゃあ何で」
「・・・・愛されたいんだ」
「それはどーゆう意味で」
「ユキが俺にしてくれたようなあんな苦しい愛じゃなくて、もっと単純に、いや、愛されたいわけじゃない、俺はただ、一人が嫌なんだ、でも誰かに愛されるのがすごく怖い・・・ユキのように、あんな、あんな愛は・・・怖くて・・・恋人も作れない・・・だから一時的に愛される売春をはじめたんだ」
「そのことに征生はなんていってる?」
「なにも・・・ユキは俺のこと、憎んでるから、高校の、あの日から」
「お前、本当に馬鹿だよ」
「・・・知ってる」
「いいや、お前はわかってねぇ!わかってねぇよ!馬鹿野郎!」
郁の怒鳴り声に、御木は肩をすくめた。
「だって他に、方法が分からないんだ」
「だから馬鹿だって言うんだ・・・俺には征生の愛がどんなものかは分からない、だが、俺の愛は恋人を苦しめるようなものじゃない」
「彼女とっかえひっかえの癖に・・・」
「あれは彼女ずらしてるだけの取り巻きだ」
「最低」
「とにかくさ、一人が嫌なら俺が傍にいてやるよ、だから売春なんてふざけた真似二度とすんな」
「なんか、告白みたい」
「きゅんときたか?」
「すこしね」
御木は郁を見上げた。
その顔は酷く真剣だった。
こんな顔で見つめられたら、どんな女も落とせるだろうと愕然と思った。
「俺、本当に頼っちゃうよ・・・」
「ああ、かまわない」
御木はその言葉に涙した。
そんな御木を見て、郁は隣に移動すると優しく抱きしめた。
御木は溢れてくる涙に驚きつつ、郁にすがりついた。
「ずっと、ずっと・・っ怖かった、ユキは、いつもっかなしそう、で、ぅ、おれ・・・やっぱこわ、くて・・・あいって、なに・・?」
御木の疑問に郁は抱きしめる腕を強くして答えた。
「愛は、一通りだけじゃない、人それぞれなんだ、何百、何千、何万もあんだよ、征生の愛はその一通りに過ぎない」
「・・・ぜんぶが、こわ、い、わけじゃない・・・?」
「ああ、優しい愛だってある、愛されて幸せじゃない奴なんて、いやしねぇよ」
「・・・俺は、こわかったのに・・・」

「フ、俺がお前に、優しい愛を教えてやるよ」

「え・・?」

「愛してる」

郁はそういって御木の顎を掬い口付けた。
御木は驚きで目を見開いた。
しかし、不思議と嫌悪感は無かった。
今まで客として付き合ってきた男たちから囁かれる愛はどれも吐き気を催すほど気持ちが悪かったのに。
目の前の郁の囁く愛は、いつかの征生と同じ砂糖菓子のような甘さがあった。







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