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優しい愛し方
2
ぴりりりりり。
朝、静寂を破り家主を覚醒させたのは目覚まし時計だった。

「うるせぇ・・・」
「早く起きろ、ミキ」
「うるせぇ・・・」
「置いてくからな」
「ああ・・・」

寝汚い御木をおいて、征生は大学へ向かった。
残された御木は暫く寝返りを繰り返していたが、寝付けなかったので仕方なく起きた。
そして、まだはっきりと覚醒しない頭を掻き、洗面台に向かった。
ばしゃばしゃと顔を乱暴に洗うと幾分か頭がすっきりしてきた。

「ふぁあ」

欠伸を漏らし、リビングへ向かうと、そこには暖かい朝食が置かれていた。
御木は当たり前のようにそれを食し、片付けた。
そして身支度を整え大学に向かった。
その一連の流れはここ最近変わったことは無い。




高校時代の二人と、今の二人が違う事はいくつかあった。
そのひとつが御木が売春を始めたこと。
本当の意味で愛されることが出来ない御木は上っ面だけの愛に固執した。
その結果が、売春だ。
相手はたくさんいた。
御木の見た目は平凡の範疇だったのだが、とにかく色っぽいのだ。
その色気につられて、男は群がった。
おかげで御木はその界隈では有名人だった。
だから相手に困る事はない。
そしてそんな御木の性生活が荒れた頃から、征生の性生活も荒れだした。
お互い朝帰りが増えるようになったのだ。
だが、その話題に触れる事はなかった。
触れる事で、今やっとの事で保っている距離が壊れてしまうのが怖かったからだ。







「あいたたたたぁ」
選ぶ相手ミスったなぁ。
そうつぶやいて夜の街をとぼとぼ歩くのは全身痣だらけの御木だった。
見ているだけでこちらまで痛くなるようなそのいでたちには訳があった。
御木は今日、いつものように相手を見繕って売春にいそしんでいた。
最初の二人はなんてことはなく済んだのだが、三人目の男は失敗だった。
優しそうな顔だったがベッドの上では豹変してSMのまねごとをさせられたのだ。
腕は縛られ、スパンキング、フィストファックはお手の物とでも云うように、痛々しい事ばかりを要求された。
御木は殴られて、必死で謝ったが、相手は聞き入れなかった。
早く終る事だけをねがい、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかったのだ。
やっと訪れた終焉に安堵したのもつかの間、男は御木に次の約束を取り付けた。
御木は断ったが、男がまた殴ってきたので受け入れるしかなかった。
「マジ最悪・・・ぃつつ」
切れた唇が痛くてまともに言葉を話すことすら叶わなかった。
「大学どーすっかな・・・」
痛む足を引きずり明日の心配をしているとやっと征生と暮らすマンションにたどり着いた。
御木は無意識のうちにつめていた息を吐き出し、部屋に向かった。
鍵を開け中に入ると、征生は留守のようだった。
そのことに御木は落胆と安堵を感じ、寝室へ向かった。
まずは汚い身体を洗いたかったが、疲れていて今は眠りたかった。
誰もいないことがこんなに悲しい事だと痛感したのは今日が初めてだった。
しかし、こんな情けない姿を征生に見られずに済んだ事もまた、うれしくあった。
「ユキはどうせ朝まで帰らないし・・・すこし、寝よう」
少し寝て、それから風呂に入ろう、そう考えて御木は目を閉じた。







都内のホテル、そこで夜景を眺める男がいた。
男は飽く事もなく、行為の後からずっと夜景を見ていた。
静寂に包まれた室内だったが、それは男の携帯に着信が入る事によって破られた。
男は億劫そうにベッドサイドにある携帯を手に取った。

「もしもし」
『今何処、誰といるの?』
「ああ、自室に一人だが」
『・・・本当?』
「嘘ついてどうすんだ」
『・・・他の女のところにでも行ってるのかと思って・・・』

男はその台詞に嘲笑を浮かべた。
そして隣で眠る女性の髪を指先で遊びながら通話の相手に言った。

「俺にはお前だけだ」
『・・・っ』

男はその後女が喜びそうな台詞を二三はいて 通話をきった。
男は相変わらず夜景を眺めている。
いつの間にか嘲笑は消えていた。
男は真剣な眼差しで夜景を眺めている。
その瞳は哀愁が漂っていた。

「ミキは・・・もう帰って来た頃か」



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あきゅろす。
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