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優しい愛し方
1
恋というのは、もっと可愛いものだと思っていた。

愛というのは、もっと優しいものだと思っていた。

俺は、貴方を優しく愛したかった。






静寂が支配するここはごくごく普通の田舎だ。
田んぼがあって、ビニールハウスがあって、畑があって。
そこにすむ住人もなんてことはなく平和な普通の暮らしをしていた。

「いってきます」
「お弁当持ったぁー?」
「持ったよ、じゃ、行って来る」
「はい、いってらっしゃーい」

朝、学校に向かうべくお弁当を鞄につめ、慌しく家から飛び出したのは御木という名の男子高校生だ。
御木は遅刻しそうなのか駆け足で学校に向かっていた。
その途中お隣さんのおばちゃんに挨拶をし、あめを貰ったので口で転がしていた。
何度か転びそうになりながらも御木は無事に学校の敷居をまたぐと一息ついた。

「これ以上遅刻したら、留年しちまうぜ」

御木は時計を確認し、早足に教室へ向かった。
朝からがやがやとうるさいのはたいてい何処の学校も共通だ。
御木は大声で挨拶すると自分の席へ向かった。
窓際の一番後ろのそこは、寝るには絶好のポジションだ。
欠伸をひとつ漏らし、かばんからペンケースを取り出し、不貞寝の体制に入った。
そんな御木に近づく男が一人。
御木の親友であるこの男、征生という。

「朝から眠そうだな、ミキ」
「お前はいつも早起きだから俺の苦労がわかんないんだよ」
「そうか?まあ、早起きは三文の徳だぞ」
「はいはい、おやすみー」

征生はため息をついて自分の席へ帰っていった。
ちなみに征生の席は御木の前である。

「ユキ〜」
「なんだ、ミキ」
「おなか減った〜」
「だらしのない奴だな・・・」

征生はかばんからゼリー飲料を取り出すと御木に渡した。
御木はそれを瞼をこすりながら受け取った。

「えへへ、あんがと、ユキ」
「朝飯ぐらい食って来い」
「朝は忙しくてそんな暇ないんだよ〜」
「はぁ・・・」

征生はため息をつくとノートを開いて予習を始めた。
御木はそれを見て邪魔するわけにもいかないのでゼリーを啜った。
まもなくチャイムが鳴り、うるさかった教室も落ち着きが見えた。
教師が来て、SHRがはじまり、その日の注意事項などを聞き、解散となった。

「あ、やべ・・・夏期講習の申し込み今日までじゃん」
「なんだ、出してなかったのか」
「やる気なかったからさ」
「結局やる気になったのか?」
「いや、迷い中・・・」
「やれば良いだろう、だらしないお前には受ける義務がある」
「よし、やらない!」
「何故だ!?」
「だってどーせわかんないところってユキが教えてくれるし」
「むっ」

征生は上目遣いの御木に弱かった。
小動物のような可愛さが在るからだ。

「俺はお前を甘やかしすぎているのか?」
「どろどろだよ〜」

傍から見たら夫婦のような二人だが、しかし恋愛関係には無かった。
いつだって征生が軽くいなされて終るのである。
征生は御木が好きだ。
いや、それは好きというにはあまりにも狂気をはらんでいた。
ただ一人、御木にとっての一番になりたい。
ただそれだけだったはずなのに。
それは御木が彼女を作ったことによって変わってしまった。
御木の一番は彼女だった。
征生がどんなに願っても叶わなかった一番に自分の知らないオンナが君臨している。
その事実に、まだ幼かった征生の心は壊れてしまった。







御木は臆病な男だった。
征生から溺れそうなほど、狂おしいほど、愛されている事を知っていながら気づかない振りをしてきた。
彼から囁かれる愛はどれも甘かった。
砂糖菓子のような、そんなものだった。
御木が抱いていた愛のイメージそのものだった。
しかし、実際の愛は違った。
甘くなどなく、そこにあるのは苦しみだった。
好きな人の幸せを願い、笑っていられるようなものではないのだ。
御木が知った愛されるというのは、どうしようもなく悲しいものだった。
言葉はどれも甘いのに、彼は苦しんでいた。

『傍にいてくれ、それだけで良いんだ・・・そのためなら全てを賭けても良い』

御木はこのとき、征生の思いから逃げた。
その行動が彼にどれだけの絶望をもたらしたか、御木は知りもしない。


そうして、それぞれが悲しみを抱き、月日は流れた。

現在、二人は大学生になり、同棲していた。
同じ大学だが、学科が違うので基本は別行動だった。
高校時代の、それぞれの思いを引きずり、今もなお二人はそれでも共にいた。


征生の心は、壊れたままだった。





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あきゅろす。
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