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優しい愛し方
2
思い出を振り返るとき、何を思うかは、人それぞれだろう。
御木は思い出を振り返ると、なんとも言えない気持ちになる。
あの子には悪いことしたなぁとか、ユキは変わらないなぁとか。
思うことは多いのだが、過去とは取り返しがつかないものだ、だからこそなんとも言えない気持ちになるのだ。

「よぅ、なんだかお前と付き合ってたのがずいぶん前なような気がするよ」

郁の登場で、いったん思考を断ち切ると、隣に座る郁を見た。

「また付き合ってるんだから、そんなこと言うなよ」
「ごめんな、不安なんだよ」
「何が?」
「全部、征生だけじゃないって話」
「ユキ?」
「恋ってのはな、不安と隣り合わせにできてるんだよ」
「そういうもんなの?」
「そう、だから、お前もいつか、誰かを思って不安になれたなら、それはそいつに惚れてるってことになるんだよ」

できるだろうか、自分に。
自分が傷つくことを恐れ、他者を傷つけてきた自分に。

「まだ・・・難しいわ」
「・・・焦るなよ、俺も征生も、たぶん・・・・」
「たぶん?」

お前の結論は求めていない。
その言葉は音となって御木に伝わることはなかった。
郁はただ、怖いのだ。
御木が征生を選び、自分の前から消えるのが・・・。
誰だって振られるのはつらい。
郁はすでに一度味わった・・・だからこそ、もう味わいたくないという恐怖は計り知れない。
ただ好きで、付き合えていたならば、御木が、普通の恋を知っていたならば。
三人はこんなにも臆病に恋愛をすることもなかったのだが、現実は彼らに厳しかった。

「ね、ねぇ?郁君」

女性特有の甘ったるい声で郁に声がかかる。
郁はさわやかな笑顔で振り返る。

「どうした?」
「あ、あのね・・・、これ、昨日焼いてみたんだけど、よかったら食べてくれない?」

女の手には焼き菓子がラッピングされて乗っていた。
郁はそれを見ると、やはりさわやかな笑顔でお礼を言う。
女はその顔に顔を赤くし、そそくさ友達を連れて講義室を出て行った。

「はぁ、女の相手は疲れるね」

御木は郁の呟きを聞きつつ目はお菓子にくぎ付けだった。
それに気が付いた郁が言う。

「なに、御木お菓子好きなの?俺好きじゃないから上げようか」
「・・・もらう」
「はい」

郁はためらいもなく女からのプレゼントを御木に差し出した。
御木は不機嫌そうな顔でそれを受け取る。
気に食わなかった。
郁が女と話すことも。
女が郁に好意を寄せることも。
そんな女にやさしく接する郁も。
このお菓子も。
それが子供じみた独占欲だということは御木自身気が付くことはなかったが、郁は気が付いていた。
だからお菓子をあげたのだ。
自分に対する独占欲に郁は暗い喜びを感じる。
御木はそんな郁には気が付かず、講義が終わると郁とともにカフェテリアを目指した。
道中設置されている燃えるゴミの箱に御木は郁が見ていようと構わずお菓子を捨てた。

「嫌い」
「何が」

郁は答えが分かっていても聞かずにはいられなかった。

「俺のものに、手を出すやつ、みんな」

俺のもの、その響きに思わず顔がにやける。
むき出しの独占欲に下半身が熱くなっていくのを感じる。

「御木、俺便所行ってからカフェ行くわ、先行ってて」
「わかった」

郁は御木を見送ると、近くにあった男子便所に入る。
下を見ると、完璧に勃起していた。

「ああ、あいつの独占欲が、嫉妬が、感情がむき出しになることが、こんなに気持ちいいなんて・・・知らなかったな」

いつの間にかハイライトの消えた澱んだ瞳で御木を思い吐精すると、何食わぬ顔で手を洗い、カフェへ向かった。



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