[携帯モード] [URL送信]

優しい愛し方
9

郁と共に過ごし始めて早一ヶ月。
ミキはいまだ、愛が何かつかめずにいた。
御木自身、そのことに苛立ちを感じ、いい加減疲弊していた。
だからだろう。
ほんの出来心。
そんな小さな動機で自殺を図った。
深夜、自室にて、片手にカッターを握り締めて。
思い切り左手首を切り裂いた。
肉が裂けて、白い皮膚が見えた。
それから徐々に血が溢れて、いつの間にか血まみれになった手首を呆然と眺めた。
リストカットというのは切る瞬間のみ痛みを感じ、切ってしまえば痛みは感じない。
御木は涙を流しながら傷口を眺めた。

「消えて無くなりたい」

この胸の痛みに、耐えられない。
やはり甘いだけの愛は御木には届かない。
郁が与えた愛は御木には届かなかった。
売春をやめた今、御木はこの悲しみを癒す方法が分からなかった。
もしかしたら、その事も今回の行動の理由に含まれているのかもしれない。
御木は静かに瞳を閉じた。
指先が冷たく感じる。

朝はまだ、訪れない。









郁は御木の手首を見た。
「何でこんなことしたんだ」
「別に」
「・・・御木・・・」
「・・・寂しかった」
「え?」
「郁は優しいし、夜も眠れるようになった、でも、寂しいって思ったんだ」
「御木・・・」
「ねえ、郁・・・なんでこんなに寂しいの?」
御木は寂しいと、泣きながら語った。
郁はそれをただ茫然と見つめることしかできなかった。
御木の求める愛が普通の、いや、郁の知る愛ではないのだと知った瞬間だった。









「そろそろ電話してくるころだと思っていた」
『わからないんだ』
「愛が、か?」
『ちがう、御木の求めるものが、愛なのか、だ』
「俺ならわかると思ったのか?あいつに憎まれている俺が、あいつが真に求めているものが何か、わかると思うのか?」
『わかるんだろう?征生』
「・・・さぁ、俺もわからん」
『そうか・・・』
「ただ、これではないかという予想なら、ないこともない」
『なんだそれは』

「束縛」

『それは一番ないだろう、お前が与えたのは束縛という名の愛だろう?』
「あくまで予想だ、忘れろ」
『一応、御木に聞いてみるわ、本人が一番わかってるだろうし・・・』
「最初からそうしろ」
『おまえに、言っておきたかったんだ・・・なんとなくな』
「きるぞ」
『ああ、じゃあな』

通話の切れた後も、征生は携帯を握りしめたままだった。

束縛。

そう答えたのは、征生の希望だったかもしれない。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!