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人間嫌いとサイコパス
3
学校というのは、僕や紅では想像もつかない完成された世界があった。
犯罪は駄目。
校則違反も駄目。
他にもいろいろ。
そしてそんな中に暮らす生徒(にんげん)もまた、僕の想像を上回るものだった。
両親に愛される、あれほど難しいことを、生徒たちは当たり前のようにこなしている。
それは僕に衝撃を与えた。
初めて学校に来たとき、それは入学式だった。
僕には紅が付き添ってくれた。
いつになくお洒落していて、いつにもましてかっこよかった。
そしてそんな紅は人の目を引いた。
僕は人の目があまり好きじゃない。
それは紅も同じようで、僕を見るときは大丈夫だが、周りを見る目は酷く冷たかった。
まわりから遠巻きに見つめられながらも何とか無事に入学式は終った。

「なあ、紅」
「なあに、しゅー」
「子供が学校に入るだけで親が見に来るのは普通なのか?」
「さあねぇ、でも、親はいないけどしゅーにはおれがいるよぉ」
「ああ、ありがとう」
「どーいたしましてぇ」

それから入学式であれだけ人目を集めたんだから学校に入っても人の目が集まる事は変わらなかった。
だが、親に愛されている。
当たり前のように育てられている。
僕が与えられなかったものを当たり前のように与えられた人間が僕はなぜか酷く汚いもののように見えた。
当然、クラスには馴染めなかった。
いや、馴染もうとしなかったが、正しい。
冷たい残飯を食らい、親の機嫌で暴力が振るわれ、親の恋人に犯され、生まれたことすら認知されず、部屋から出られず、怪我をしても放置される、そんな暮らしを知らないで、簡単に生きてこれた人間と仲良くなんてなれるはずない。
自分が可哀想なんていう気はない。
現に、紅だっておそらく僕と似たような過去を持っている。
ただ、意地だと思う。
今は紅のおかげで普通と呼ばれる暮らしをしていると思う。
だが、つい一年前まで僕は人間ではなかった。
そこにあるなにかだった。
母親だって僕のことはゴミ、クズ、ならいいほうだ、基本はおい、ちょっと、だったから。
そんな僕がいきなり人間に紛れて暮らせるはずがない。
僕は人間に恐怖に近い嫌悪を感じていた。
それが、学校での孤立の原因だろう。
べつにかまわないが。
理由は分からないけど、紅には知られたくないと思った。





「ただいま」
「おっかえり〜」

下校時間になったからさっさと帰ってくる。
コレはもう習慣だった。

「て〜あらっておいでぇ」
「ん」

鞄を寝室に投げバスルームへ向かった。
鏡に映るのは情けない顔。

「はぁ」

僕は手を洗い、席についた。
紅は料理を運んでくると何故か僕の頭を撫でた。

「!?」
「良い子、なにかあるなら何でも言って」

いつものニヤニヤした顔じゃなくて、優しい顔で心配されてしまった。
うすうす紅には分かっていたのかもしれない。
嘘はいつもばれていたから。

「なに、も・・・ないし」
「そう?ならいいんだ」

視界が歪んできた。
泣きそう、いや、多分泣いてる。
そんな僕の頭を紅は優しく撫でてくれた。
何故かすごく安心した。
悲しいときに、誰かが傍にいてくれることがこんなに心地良いなんて。
ちょっと前の僕には想像がつかない。

「べ、べに・・・」
「んー?」
「が、がっこ・・・の、ひとたち、こわい・・・」
「虐められたの?」
「んー、ちが、う」
「そう、気にしなくて大丈夫だよ、しゅー」
「ずび、どーして?」
「しゅーはあそこの連中とは違うもん、ね?」
「そー、なの?」
「そーだよぉ、しゅーは良い子、でも他の連中は俺にとって家畜でしかない」
「・・・ぼく、も・・・いつかたべる?」
「喰べないよ、しゅーは俺の特別だから」

そういった紅の瞳が怪しく光ったのを僕は見た。
だけど、紅になら、食べられても良いと、本気で思った。



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