[携帯モード] [URL送信]

美しい化け物
8

Ladybug! Ladybug!

Fly away home.

Your house is on fire

And your children all gone.

All except one,

And that's little Ann,

For she has crept under

The flying pan.




てんとう虫

おうちへお帰り

おうちは火事で

子供たちは

一人を残して焼け死んだ

フライパンの下に

潜ってたおかげで

助かったんだとさ




「イギリスのてんとう虫は赤地に青い斑点が付いているらしいよ」

「へえ」

「僕はてんとう虫大嫌いだけど、遼は?」

「俺は、嫌い」

「そう、お揃いだね」

僕も彼も基本的に虫が嫌いです。
だからといって女子のように騒いだりはしませんが。
居ると嫌な顔ぐらいはします。
彼は嫌いでしょうけど、虫がいてもその顔はやはり無表情のままです。

「遼」

「何」

「お花見をしない?」

彼は文庫本から顔を上げて僕を見ました。
その表情は平生と変わりありません。
僕は少し笑って彼に言いました。

「花の命は短いよ」

「別にかまわない、でも、どうして」

「思いつきさ、たまには花でも愛でようじゃないか」

「似合わないこというね」

「まあ、たまにはね」

彼との思い出が欲しくなった。
実のところ、それが理由です。
僕たちはいずれそれぞれ違う道に進み、将来を築きあげるでしょう。
その際、感傷に浸れる美しい思い出が欲しいと思ったのです。
思えば彼とは共に育ってきましたが、美しいといえる思い出は何一つ無かった。
だから、卒業してしまうまでのこの一年間に、彼との思い出を作りたく思いました。
しかし、それを素直に彼に伝えるには僕が臆病すぎたのです。
ただ刻々と過ぎていく時間を眺める事しか出来なかった僕には少し、荷が重過ぎました。

「桜、ね・・・」

彼はただつぶやき、また文庫本に視線を戻しました。
今度は何を読んでいるのでしょうか。
僕は意を決して聞いてみました。

「雪の夜の話」

「また太宰、好きなの?」

「さあ」

「・・・ふーん、まあでも、僕は人間失格は嫌いだけど、その話は好きかな」

「どうして」

「美しいものを目に焼き付けたいって気持ち、分かるから」

「京は醜いからね」

「ああ、そうだよ・・・一生付き合うこの顔が醜いからこそ、眼福が欲しくなるのさ」

「なるほどね」

彼はそれきり黙りこみました。
雪の夜の話は短編なのですぐに読み終わるでしょう。
しかし彼が手にしているのは文庫本、おそらく短編集でしょう。
だから彼はきっと今日も読書にふけるようです。
退屈ないつもの午後のことでした。





[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!