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美しい化け物
3

There was a man , a very untidy man,

Whose fingers could no where be found

to put in his tomb.

He had rolled his head far underneath the bed:

He had left his legs and arms lying

all over the room.



一人の男が死んだのさ

すごくだらしのない男

頭はごろんとベッドの下に

手足はバラバラ部屋中に

ちらかしっぱなし、だしっぱなし





「一人の男が死んだ?」

「そう」

「・・・」

「嫌いだった?」

「なんとも思わない」

「・・・あ、そう」

彼はそれきり黙りこみました。
もとより会話なんて続きません。
何かを期待しているわけではないので僕はそれで構いません。
彼は多くは語らないのです。


「・・・、」

「どうしたの」

「人」

「え・・・」

彼はいきなり立ち止まりました。
下校中のことです。
彼の視線の先には公園がありました。
いいえ、公園ではなく、その中にいるある一人を見ていました。
それは女の子でした。
黒く長い髪の。
彼は動きません。
僕はなんだか居心地が悪くなりました。
女の子はこちらに気が付いたようでした。
小さく会釈をしました。
彼は何を思ったのでしょう、突然女のこの方へ歩いていきました。
彼は無表情です。
分かっています、今彼は彼女に興味津々なのでしょう。
彼は顔には出ませんが可愛らしいものを見るとときめきます。
僕は醜い嫉妬に駆られました。
彼が、女の子に奪われてしまう気がしたのです。
いえ、これは予感ではなく、確信です。
彼は僕のものではありません。
つまり、彼を止める事は僕には出来ないという事です。
ああ、僕はただ、彼らを見つめる事しか出来ませんでした。


「あら、先輩、どうしたんですか」

「桜蘭がいたから」

「まぁ、めずらしいですね、貴方がそんな事言うなんて」

「問題が」

「ありませんよ」


絵になる二人でした。
僕は酷い眩暈を感じ、二人から目を逸らしました。
醜い。
なんと醜いことでしょう。
僕は醜い。
美しい二人に嫉妬している。
ああ、僕も美しければ、あそこに行けたのでしょうか。

「あちらの美しい方は?」

「京」

「苗字は」

「   」

強い風が吹きました。
風は彼の言葉を攫っていったようです。
しかし、彼女には聴こえたようです。
その顔は驚愕に染まっていました。


「まあ、それじゃあ、先輩たちは・・・」

「京がいる、云わないで」

「・・・ええ」

「それじゃ」

「さようなら」


彼は彼女に別れを告げたのでしょう、ゆっくりとこちらに帰ってきました。
その足取りは平生と変わりありません。


「知り合いなの?」

「ひとつ下」

「ふーん、キレイだね」

「京が醜いだけ」

「・・・っ」

そんなこと、云われなくても分かっていますよ。
ああ、ですが美しい彼は、その言葉が僕を傷つけていることに気が付いていないのでしょう。
だからでしょう、彼はよく僕に言いました。

『ああ、醜いよ、京』

『父さんにそっくりだ』

彼の言葉は刃のように僕を切り裂きました。
僕にはどうする事も出来ません。




「美しくなりたい」

「無理だよ」





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