美しい化け物
1
"Who killed Cock Robin?"
"I" said the Sparrow.
"With my bow and arrow, I killed Cock Robin"
”誰が殺した?クックロビン”
”それは私”と雀が云った。
”弓と矢で私がクックロビンを殺しました”
「マザーグース?」
「そう、駒鳥」
「意外だな、童謡なんて聞くんだ」
「嫌いじゃないよ」
いつもと変わらない昼休みの事でした。
意味なんてありません。
思いついたから、彼の前で歌ったのです。
僕はマザーグースが何たるか、その本当の意味なんて分かりもしないのにフレーズが気に入ったという理由だけで彼の前で得意げに口ずさみました。
そのようなこと、きっと彼なら気がついているでしょう。
博識な彼のことです、僕の浅はかな行動を心では笑っているかもしれません。
心配になってきました。
生来思い込みが激しい僕はそうと決めたら固定概念に縛られてしまいます。
おもわず箸を置き彼に向き直りました。
彼は僕の視線には気が付かずもくもくとお弁当を食べています。
不安です。
彼は今何を思っているのでしょう。
僕のことなんか考えていないかもしれません。
しかし、僕は気になりました。
無口な彼は、自分から話すことは基本的にありません。
話はいつも僕から始まるのです。
「何、考えてるの」
「何故、そんな事聞くんだい」
「思いつきさ、意味なんてない」
「そう、何も考えてないよ」
「・・・そう」
彼はまた箸を動かしました。
今日の僕はどうしたのでしょう。
彼のことが気になって仕方がありません。
食欲も無くなりました。
仕方がないので昼食はこれで片付けることにします。
すると珍しい事に彼から話をかけてきてくれました。
「食べないの」
「食欲がない」
「・・・」
片付け終わって彼のほうを向くと彼は眉を寄せていました。
美しいかんばせを歪ませて、彼は僕に訴えたいようです。
しかし、食欲がないのは事実です。
無理に食べると吐いてしまいます。
そのことを彼に伝えると彼は黙って玉子焼きを僕の口元に持ってきました。
食べろという事でしょう。
「いらないよ、遼」
「・・・」
彼は引きません。
頑固なところがある彼のことです、食べるまでこのままかもしれません。
僕は勤めて無表情にそれを食べました。
彼の家の玉子焼きは僕の家とは違い甘い味付けのようです。
「あまい」
「嫌い」
「まさか」
好きですよ。
彼の食べているもの、彼から食べさせてもらったもの。
彼に関わるもの全てが愛しい。
食欲などなくても、彼がくれた玉子焼きは美味しく感じました。
「遼」
「何」
「ありがとう」
「・・・どういたしまして」
彼は基本的に無表情です。
感情がないわけではありません。
無表情なのです。
美しいそのかんばせは喜怒哀楽が乏しいのです。
「遼」
「何」
「名前を、呼んで」
彼は無口で無表情で、博識な、僕から見れば美しい化物です。
ですが、僕はその化物に恋をしました。
「京」
「ふふ、ああ、いいね」
彼は無表情に僕を見ます。
僕は少し笑って彼を見ます。
今日も彼は愛しい。
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