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春眠暁を覚えず2
首を傾げつつ歩きだそうとすると、何だか手に違和感。
「あ!お姉さんカバン!」
私が違和感の正体に気づいたと同時に聞こえてきた声。
顔を向けると釣竿を構えた男の子がいた。
「本当にありがとう」
あの後、見事釣竿で私のカバンを取り返してくれた男の子にお礼を言い頭を下げる。
「ううん、ちゃんと取り戻せてよかったよ」
犯人は逃がしちゃったけど、と眉を下げ申し訳なさそうに笑いながらこめかみを掻く。
その姿に可愛いな、と思いながら首を振りもう一度ありがとう、と告げる。
すると今度ははにかみながら嬉しそうに笑ってくれた。その顔を見て私も笑顔になり、2人でえへへと、笑いあった。
「お姉さんはこの辺りの人なの?」
「ううん、住んでるのは隣街。今日は仕事が休みだったからたまたまこっちに来ていたの」
2人ともお昼がまだだったので、助けてくれたお礼にと、近くのパン屋さんで買ってきたベーグルサンドを近くのベンチに座って食べている。
男の子はそうなんだ、と頷き美味しそうにベーグルサンドを頬張っている。
その姿を見て和むなあ、と頬を緩める。
「君は?この辺りの子なの?」
「ううん、俺、今日初めてここにきたんだ。本当は友達といたんだけどはぐれちゃって…」
と、またこめかみを掻きながら笑うので、これはこの子の癖なんだな、と思いつつ
「連絡はとれるの?」
「うーん、とれない…」
たぶん見つけてくれると思うんだけど、と言いながら、んー、と腕を組み考え込む。
「じゃあ、その友達が見つかるまで私の話し相手になってくれない?」
「え?でも、いいの?」
考え込んでいた顔をあげて、キョトンとこちらを見上げるので、見つけてくれそうなら下手に動かない方がいいし、私は話し相手が出来て一石二鳥でしょ?と提案すると、
「うん!ありがとうお姉さん!」
と満面の笑顔が返ってきた。
それからこの辺りで美味しいご飯のお店や、オススメの場所、観光地などの話をした。
こんなところで私の1人歩きの情報が役に立って嬉しい限りだ。
男の子はとても興味津々で楽しそうに聞いてくれるので、こちらも話し甲斐がある。
なんでも故郷は本土から離れた小さな島なので知らないことばかりだそうだ。
「ここにはいつまでいるの?」
「うーん、まだ決めてないけど…とりあえず借りを返すまではまだここにいる」
借り?何のことだろう、聞こうとすると、あぁ!ゴンっ!!と大きな声がして男の子がそちらに顔を向ける。
「お、ま、え、は、こんなところでなにしてんだよ!!」
と、銀髪の男の子がすごい形相でこちらに歩いてくる。
それに、黒髪の男の子はキルア!!と返しながら立ち上がり手をぶんぶん振る。
「キルア!じゃねえよ!いきなり居なくなったと思って探してりゃこんなところで油売ってやがって!」
キルアと呼ばれた男の子におデコをびしびしつつかれながら、あうあう、と後ろに下がりつつごめんってばー、と謝罪している。
このまま放っておいたらどこまでも行きそうだな、と思い声をかけた。
「あはは、友達が見つけてくれてよかったわね」
そういうと銀髪の子が私の存在に気づいたのかおデコをつつくのを止めて振り返る。
隣でおデコを抑えながら、うん!ありがとうお姉さん!と笑顔を向けられたので私も笑顔で返した。
「じゃあ、私もそろそろ帰るわね。話し相手になってくれてありがとう」
それからこれもね、とカバンを持ち上げ、
手を振ってその場から歩き出す。
少しすると、ありがとー!と声が聞こえたので振り返ると黒髪の男の子が両手をぶんぶん降っていた。その姿に自然と笑が零れ、私も手を振り返した。
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