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嵐の前の静けさ



周りでは盛り上がった観客が立ち上がり、次々と賞賛の声をあげている
その姿に心の中で同意しつつも素直に喜べない自分がいた


(思ったより早いな…どうしよう、)


きっとあの銀髪、キルアに手をふっているのであろう、先程まで自分の倍はある相手と戦っていた少年、ゴンは嬉しそうに笑って
いた




昨日、ヒソカとの食事の後、ナンパ男から助けてもらった少年2人が今、天空闘技場では知らない人はいないほどの、あのルーキーだということをひょんなことから知ってしまった私

そこで、2人がまだ念を修得していないことを知ってしまったのだ
今までも念を修得していない選手達が200階クラスに挑戦するのを何度も見てきた
もちろん念を使えない者が勝ち上がることは不可能だ そこで待っているのは、ただ負けるよりも遥かに大きいダメージ


〈洗礼〉


まだ念を修得していない者に自分のオーラをぶつけることにより、無理矢理その体からオーラを引き出す方法


運がいい者はそれで念を修得できるが


もし、運が悪ければ


(最悪、死にいたる…か、)


いつもなら放っておくのだけれど、今回は気になって仕方がない
いてもたってもいられなくて、休日にわざわざ職場まで足を運んでしまったというわけだ


まだ2人共子どもだし、ゴンくんには2回も助けてもらったし それに…


(なーんか、長い付き合いになりそうな気がするのよねぇ)


根拠も何もないが、これが滅多に働かない女の勘というものならば、黙って従っておこうと思ったのだ


(…こうなったら直接会って話すしかないか)


それなら急ごうと、無事に200階クラスに上りつめた2人を見届けた私は観客席をあとにした



****



時を同じくして、200階のある部屋では1人の男がテレビを見つめる姿があった
電気をつけていないその部屋は暗く、唯一テレビの明かりでしか周りを窺えることができない
テレビに映し出された2人の少年、その姿を捉えた男の顔はみるみる笑顔に変わっていく
その顔は笑顔というにはあまりにも狂喜と妖しさを含んでいた


今誰かが自分の顔を見たならば、一瞬のうちに逃げ出すか、もしくは動けないほどに怯えるだろう

その様子を思い浮かべると、背中に沸き上がってくる快感と興奮

こんな自分の姿を彼女がみれば盛大に顔を歪めることだろう
歪めるだけではなく、きっと最大級の誉め言葉もつけてくれると確信できる


そんな彼女のことを考えていると、ふっと出てくる笑い声
気がつくと、先程までの興奮とは違う、今まで感じたことのないような感覚が自分に起こるのだ



それが何なのか、わからないけれど



ふと、確か今日彼女は休みだったと思い出す
特に何も約束はしていないが、何となく会いたくなってしまった
時間があれば顔を見に家に行こうと、今勝手に約束を取り付けた
きっとぶつぶつ言いながらも家に入れてくれる筈だ その光景がありありと浮かんできて自然と口角が上がった















――さあ、僕の青い果実に会いに行こう







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あきゅろす。
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