main 二度あることは三度ある 「そろそろ、僕の青い果実がやってくるよ」 いつものように仕事をしていると、エレベーターにヒソカが乗ってきた。一言二言話していると、いきなり言われた。 「聞いているかい?」 「…聞いてるわよ。その手下ろして」 反応がない私に聞いていないと思ったのか、また頬っぺたをつねろうと手を伸ばしてきたので、その前に自分の手でカードした。あぶないあぶない… 別に聞いていなかった訳ではない。青い果実発言に呆れていただけた。 「何でもうすぐ来るってわかるのよ?」 まさか…!と自分の肩を抱いて後ろに下がる。 「ストーいひゃいいひゃい!!」 「失礼だなぁ、君は」 今度こそ頬っぺたを引っ張られてしまった。ストーカーという言葉は最後まで言わせてもらえず結構痛くて涙目になり睨み付ける。 私の顔を見てヒソカは満足そうに笑い手を離した。 **** そして次の日、闘技場はある二人の選手の話で持ちきりだった。登録したその日から連勝負けなしでしかも戦い方がすべて1発K.Oらしいのだ。どんな選手だ、と興味津々に訪ねると、なんとまだ子供らしい。 闘技場にやってくるのは皆、それなりに武術に自信がある者達だ。そんな中で勝ち進むのだからかなりの実力なのだろう。子供ながらに末恐ろしい。 同僚にお昼休みに見に行こうと誘われたが断った。見るなら100階クラスの試合を見たほうが断然面白い。すぐに上がってくるだろうし、もしかしたらエレベーターでお目にかかるかもしれない。私のエレベーターに乗ればの話だけど。 その日の夜ヒソカと夕食をともにした際にふと思いだしたので聞いてみる。 「ヒソカは会った?話題のルーキー」 コイツは100階にいるから接点はないだろうが、もしかしてと思いたずねる。私よりは断然出会う確率が高いわけだし。 答えを待ちじーっとヒソカを見ればグラスを回し、なんだか楽しそうだ。その口元には笑みが浮かんでいる。 「何笑ってんのよ、で?もう会ったの?」 「いや、まだだよ」 まだ、そう呟いてグラスを一気に煽る。 その様子に首を傾げるもヒソカは何も言わずに何杯目かのワインを注いでいた。 帰り道、タクシーを拾うついでに酔いも覚まそうと二人でブラブラと歩道を歩いていた。 隣で歩いている男を見る。足取りはしっかりしているし顔色も普通どおり。別におかしなところはない、その笑顔以外は。 「ちょっと、なに笑ってんのよ…酔っぱらってんの?」 「まさか、ワイン2本じゃ酔わないよ」 知ってるだろ?とこちらを見る奴の顔はやっぱり笑顔だ。怪しさ満点の雰囲気にたじろいでいると電子音が響いた。 「私、じゃないわよ?」 「…僕だね、ちょっと待っててくれるかい?」 オッケーの意を込めて手をひらひらさせる。 携帯を耳に当てながら少し行った路地の中に入っていった後ろ姿を見て私も移動しようと歩道の端、花壇のはしっこに腰をおろした。 **** 「ありがと、また助けられちゃった」 「ううん、全然!」 「女がこんなとこに1人でいたらナンパして下さいって言ってるようなモンだぜ?」 「あはは、そうだね」 気を付けるよ、と横に座っている黒髪と銀髪を見る。 ついさっきヒソカの奴を待っていると見るからにチャラチャラした男が2人、声をかけてきたのだ。まず声をかけられたことにあっけにとられてしまい動けずにいると(久しぶりで…)それを怖がってると勘違いしたのか、調子にのった男の1人が腕をつかんできた。あ、ヤバいかも、と他人事のように思いながら口を開こうとすると 『人さらいー!おまわりさーん!こっちこっちー!』 と声がして何ともまあ古典的な方法でナンパ男を追い払ってくれたのだ。 そして今に至る 「お姉さん、こんなところに1人で何してたの?」 「あー、ちょっと人を待ってて…」 そういえば遅い、ヒソカがいなくなってどのくらいたったかわからないが、遅い。歯切れの悪い返答に黒髪の子は首を傾げる。 「それって、スッポかされたんじゃねえのー?」 「キ、キルアっ!」 「だってよーこんな時間だぜ?」 頭の後ろに腕を回して偉そうにしている銀髪の子とは反対にわたわたとしている黒髪の子。2人のやり取りが可笑しくて、ぷっと吹き出すとキョトンと見てくる4つの目。 「ふふ、ありがと心配してくれて。でも大丈夫、スッポかされたわけじゃないから」 今電話してるの、と奴がいるであろう方向を指差す。 「なあんだ、よかったぁ」 胸を撫で下ろす黒髪の子を見て無意識に頬が緩む。そこでふと、そういえば名前聞いてないなと思い付く。 「ねえ、よかったら名前教えてくれない?」 また会いそうな気がする、何だか縁を感じるのだ。また、どこかで会う。そんな気が、 「そういえば、お姉さんの名前も知らないや。俺はゴン!こっちが…」 「キルア」 「ゴンくんにキルアくんね、改めてよろしくね」 お互いに自己紹介が終わり色々と話していてそういえば、と思う。この子達はこんな時間にこんな場所で何をしているのだろう。 子供が出歩くような時間じゃない。 「そういえば、君たちはここで何してるの?家は?この間会ったのは隣町だったけど…」 「あ、俺たち今闘技場にいるんだ」 「え…?」 ほらあそこの、と指差されたのは見馴れすぎた建物で私の職場だ。 「あそこなら金も貯まるし、修行も兼ねてってことで一石二鳥だし?」 「ほんと、イッセキニチョウだね!」 「無理に使わなくていいぞ、ゴン」 「あや、バレちった?へへへ」 待って、今、私の頭は混乱している。この2人どうみても12才かそこらだ。しかもこの様子だと闘技場にきてもう何日もたっているのだろう。最近闘技場に登録、子供が2人… 間違いない、この子達だ。あの噂のルーキー 意外すぎる事実に言葉もなく呆然と立ち尽くす。驚いて声も出ないとはまさにこの事だ。 (すごい偶然…でも、この子たちまだ…) 「この調子じゃ、すぐにでも100階クラスだぜ」 「うん!早く上に上がって強い奴らと戦いたいよ!」 …どうしたもんか、見るかぎりこの子たちはまだ念を習得していない。オーラが垂れ流しだ。 (こんな状態で100階に上がれば…確実に洗礼を受けることになる…) 普段なら念を習得していない選手をみても特に何も思わないが、この子達は別だ。まだ子供だし、ゴンに至っては2度も助けてもらったのだ。何とかしたい。でも、できない。 どうしようもできない事実に悶々と考えているとピリリと電子音が響いた。ハッとして携帯を取り出すとヒソカからのメールだ。 『こっちは終わったよ』 時間を確認すると、ヒソカがいなくなってから15分たったところだった。 (えーい、今考えてもどうしようもない!幸い近くにいるんだし…) 「連れの用事が終わったみたい、ありがとう一緒に待っててくれて」 「ううん、俺たちも楽しかったから」 「スッポかしじゃなくてよかったなー」 「キルアっ」 「ははは、君たちはいいの?闘技場のホテル門限あるでしょ?私ならもう大丈夫よ」 「あっ!やべ!あと10分だ!急げゴン!」 「え、ウソ!?待ってよキルア!じゃあお姉さんまた会おうね!」 「うん、近いうちに」 またねー!と元気に走っていく2人を見送る。見えなくなったところで背を向け反対方向へ歩く。路地の中を覗くと壁に凭れてポケットに両手を突っ込んでいるヒソカが立っていた。 「こわッどこのチンピラよ」 「………」 (…そういえばあの女、何で門限あるの知ってたんだ?) (あ、ほんとだね?) ←→ [戻る] |