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short novel
Winter=Sweet
たった一言
それが私たちの扉を開く





「ちょっと!それあたしの!!」
「一本くらい良いじゃねぇか。」


肌を撫でる風が冷たくなり、吐く息が白く見える・・・今日もいつもと変わらない、騒がしい一日が始まった・・・


「潤一!!いつも言ってるじゃん!あたしのもの勝手に取るなって!!」
あたしのどなり声に顔をしかめる潤一は、またもやポッキーをひょいと取り、口へと運んだ。
「ったく、少しくらい良いじゃんか。未来はケチだなぁ。だからモテないんだよ。」
「余計なお世話!!それに、あんたの場合少しじゃないじゃん!」
潤一がまた手をのばしてきたので、あたしは慌ててポッキーを遠ざけた。
潤一はちぇっと言って私の席から離れた。

「あらあら、朝からまたやってんねぇ。」
そう言って私の前の席に腰掛けたのは芽衣。芽衣はストレートの綺麗な髪をしている。あたしはねこっけだし、髪がくるくるしているから、芽衣がすっごく羨ましい。
「まったく。あたしのポッキー取るなんて!何様のつもりさ!潤一のやつめ!」
「はいはい、わかったから。でも、あんた好きなんでしょ?」
さらっと言ってしまった芽衣はちらっと潤一の方を見て、それからあたしを見てにっこりと笑った。
「なっ!そ、その話は良いってば!」
あたしは顔が熱くなるのを感じながら芽衣に言ったが、その様子を芽衣は面白がっていた。
「ま、私は別にいいんだけどさぁ〜潤一くん、昨日また告られてたよ〜?」
あたしはその言葉に思わず反応してしまった。すると芽衣はくすりと笑って「案の定断ってたけどね」と付け加えた。
「でも潤一くんはルックスばっちりだからねぇ〜。早くしないと他の人に取られちゃうんじゃない?」
「べ、別に、あたしには関係ないもん!!」
そうは言ってみたものの、動揺は収まらない。
あたしだってちゃんとわかってる。
潤一はあたしが初めて話した男子で、高校生になって初めて好きになった人だ。
背は丁度いい感じに高くて、柔らかそうな髪は襟足が少し長めにカットされている。
「あのさ、もう二学期も終わっちゃうんだよ?このまんま一人寂しい冬休みを迎えるつもり?」
「・・・・」
「はぁ・・・ま、あんたの気持ちも分からなくはないよ?なんせ意地っ張りで素直じゃないからねぇ、未来さんは。」
そのとき授業開始のチャイムが鳴った。


一時間目は古典。
先生が何やら文を読んでいるけど、あたしは一人全く違うことに頭を使っていた。

潤一がモテるのは入った当初から知っていたこと。
そんな潤一となんであたしが言い争いをできるような仲になったのか。
それはほんの些細な出来事からだった。



「はぁ・・・なんか上手くクラスに馴染めてないよぉ・・・どうしよう」
入学して少し経った日のお昼休み。あたしは屋上で悩んでいた。話せるようになった友達は芽衣だけだった。
「まぁまぁ、そう気を落とさないでさ!ポジティブにいこう!!」
「うん・・・」
あたしは元気を出すために大好きなポッキーを取り出した。
と、その時・・・
「あぁ!!!わりぃ、そのポッキー俺にも恵んでくれ!!!」
いきなりあたしの視界に現われたのは、初日から騒がれていた男子、須藤潤一だった。
「・・・はぁ。」
わけがわからないあたしは、とりあえず言われたとおりに持っていたポッキーを一本差し出した。
潤一はそれを有難そうに受け取りすぐに食べてしまった。
「・・・これじゃやっぱし腹の足しにはなんねぇかぁ。あ〜ちくしょう!!朝ごはん抜くんじゃなかった!!」
周囲の視線があたしたちに集まっていて、恥ずかしくなったあたしはポッキーをすべて潤一に押し付けた。
「え?これくれんの??」
あたしは声を出さずにぶんぶん首を縦に振り、そのまま教室へと走った。





「あらあら、私の授業を聞いてなくても理解できてるってことなのよね?瀬野さん。」
あたしがふと視線を上げると、目の前には引きつった笑顔を貼り付けた女教師が立っていた。
「あ・・・いえ、すみませんでした。」
「あなたお世辞にも成績が良いとは言えないのですから、しっかり授業を受けなさい!!」
「・・・はい。」
周りのくすくす笑う声がやけに耳に残った。




 「未来、おまえ馬鹿だなぁ〜。あいつの授業でぼーっとしてるなんて、いい度胸してるぜ。」
「うるさいなぁ。ったく、人の気も知らないで。それと、今日はもう何もないよ。」
放課後になると潤一は決まってあたしのところにくる。こいつのお目当てはあたしの持っているお菓子。
「あれ?なんで?いつもは2種類持ってんじゃんか。」
「今日はたまたま良いのがなかったの!!」
「・・・どうした?なんかおまえ今日おかしいぞ?」
「・・・・」

正直、潤一があたしに話しかけてくれるのはとっても嬉しい。例え理由がお菓子であっても・・・。
でも・・・悲しい気持ちにもなるんだよ?

「おい、大丈夫か?」

お願いだから、優しくしないでよ。いつもは笑い飛ばすくせに。
そんなしけた面にあわねぇ〜って、普段通り言えばいいじゃん。

「・・じゃない・・」

「え?なんだって?」

「・・大丈夫じゃない!!!」

自分でもよくわからない。気づいたら目にいっぱい涙が溜まってて、それをあいつに見られたくなくて。あたしは教室を走って出て行った。


どうして?なんであんなやつ好きになったんだろう。叶うわけないじゃん。
あいつは皆の憧れの的で、いつも中心にいて。
あたしとは全然違う。
結局あたしって、良いように使われてただけだったのかな。


無意識のうちに、足は屋上へと向かっていたようだ。
ここだ・・・あいつを・・・潤一を好きになった場所。
なぜここに来てしまったんだろう。

「・・・あたしってやっぱ馬鹿だぁ。」


「・・・ほんとだよ。」

聞こえるはずのない声が聞こえる。
あたしの大好きな人の声。でも今は聞きたくない声。

「・・じゅ・・いち・・・?」

あたしは恐る恐る後ろを振り返った。
あいつを見た途端、止まりかけていた涙がまた溢れてきてしまった。

「な・・んで?どうして、あんた・・・」
「おまえなぁ!!」

潤一が怖い顔をしてあたしの方に歩み寄ってきた。
あたしは反射的に後ろへと下がる。
でもフェンスが邪魔をして、それ以上は下がれなかった。

とうとう潤一があたしの目の前に来た。



「・・・俺なんかしたか?」

いきなり情けない声を出した潤一に、あたしは呆気に取られた。


「・・俺、相手の気持ちとかよくわかんねぇから・・・気づかないうちにおまえのこと傷付けてたんなら・・・悪い。」


どうしよう。そんなこと言われたら、もう押さえていられないよ。


「・・・いいから。なんでもないから・・・!!」
「なんでもないわけないだろ!!」
「いいっつってんじゃん!やめてよ!!あたしに構わないで!!!」

「・・・!!」

その時、あたしの視界が揺らいで、目の前が真っ暗になった。


「頼むよ・・・頼むからそんなこと言わないでくれ・・・」

あたしは今、潤一の腕の中にいるらしい。頭がこんがらがってて、上手く動かない。

「・・・潤一?」

必死に声を振り絞って、愛しい人の名前を呼ぶ。

「俺・・・おまえが好きなんだ・・・・ずっと好きだったんだ。」

「・・・え?」

「この高校に入って、おまえを見て・・・不思議な気持ちになった。最初はわからなかった・・・この気持ちがいったいどんなものなのか・・・でも、ここでおまえに会って、いてもたってもいられなくなった。」

そして突然あたしの肩を掴んで体を離し、まっすぐな眼差しで見つめてきた。
あたしも潤一の目をまっすぐに見つめる。

「未来、好きだ。誰にも渡したくない。」

心臓がドキドキいってて、飛び出しちゃうんじゃないか思った。

「・・・未来は?」

こんな不安そうで、切なげな顔、見たいことない。あぁ、やっぱりあたし・・・

「・・き・・・あ、あたしも・・・潤一が・・好きだよ・・・」

いつの間にかとまっていたはずの涙が、いくつもの筋を作ってあたしの頬を流れる。

愛しい・・・大好きなあなたに・・・この思いをようやく告げることができた。

潤一は優しく微笑んで、それからまたぎゅっとあたしを抱きしめてくれた。まるで、今まで触れられなかった時間を埋めるみたいに・・・。





冬の寒さが身に凍みる―――
それでも
もう大丈夫――
あなたの温もりが
いつも隣にあるんだから―――









おまけ

「あ〜菓子ぃ〜!!」
「はぁ・・・わかったよ!あとで買ってあげるから!!」
「あ、やっぱ俺こっちでいいや♪」
ちゅっ♪
「~~~~潤一ぃ!!!!!!」


おしまい☆



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