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short novel
青空
澄み渡ったこの空に   あなたは何を思うのだろう                         私、桜井菜月は、一人高校の近くにある公園にいた。この公園は滅多に人がこないことで有名。なぜならここに唯一ある木に霊がついてるとかで、皆不気味がって近寄らないから。私は霊を信じない。というかそういう類を見たことがないので、あまり気にしていない、と言ったほうが正しいかもしれない。まあ、とにかく私は今一人、例の木の下で体操座りをし、ただただ空を見上げている。  「あれ?めずらし〜い。この公園に人がいるなんてなぁ。」         私は今の声で我に返り、声のした方向へ顔を向けた。そこには手にコンビニの袋を持ち、暑そうに手で顔を仰いでいる少年が立っていた。すると、その少年は私のほうに歩いてきて、どさっと隣に腰を下ろした。 「こんな蒸し暑い中、よく外にいられるねぇ。」  一体この子は何者だろう。私がそう考えていると、隣に来た少年が私の顔を覗きながら「君ここで何してるの?」と尋ねてきた。  「私もよくわからないの。」           そう答えると少年はふぅ〜ん、と言ってコンビニの袋の中からソーダ味のアイスを取り出した。その色が今日の青い空の色と似ていて、私はアイスを眺めていた。すると少年は私の視線に気付いたようで、「食べる?」と言ってアイスを差し出してきた。私はお言葉に甘えてアイスを一口もらった。少し溶けかけていたけれど、やっぱり冷たくて、少し歯に凍みた。    「僕はここ好きなんだけどなぁ。他の人がなんと言おうとね!」       そういって残りのアイスをぱくっと食べた。    「君はなんていう名前?僕は小崎隼人、高1!」  え!?この小崎隼人と名乗る少年って私と一つしか変わらないの!?などと失礼なことを思っていると、小崎くんが「お〜い」と声をかけてきたので、慌てて返事をした。       「えっと、桜井菜月、高2です。」        「え!?嘘!年上だったの!?うわ、すいません。てっきり同い年か年下だと思ってたもんで。」    それって全然フォローになってませんけど?    「子供っぽくてすみませんね!」         私は嫌味ったらしく言うと、小崎くんとは反対の方向に顔を背けた。     「あ、ごめんなさい!別にそういうわけじゃなくて・・・機嫌直して下さいよ〜菜月!」      
ん?今なんて言った?  「初対面の人を名前で呼ぶかぁ!?」       「あ、こっち向いた♪」 私はなんだか無性に悔しくなったので、小崎くんから視線を反らした。    「ねぇ〜菜月先輩、ここってな〜んもないでしょ?公園のくせして、ブランコとこの木しかない。でもそのかわり、めっちゃ綺麗に見えるんです、空。」   小崎くんは空を見ながら呟いた。私はその時の彼の横顔に見入ってしまった。それはとても美しく、澄んでいたから。       「小崎くんは、意味もなく悩んだりすることある?」「そりゃありますよ。」 「その時、答えは見つかった?私はまだ見つからなくて・・・何を考えて、何をすれば良いのかもわからないの。」        「人それぞれですよ。絶対に見つけなきゃいけないわけじゃないと思いますよ?」           小崎くんは視線を空から私に移し、笑顔でこう答えてくれた。        「ありがとう。」    「どういたしまして☆」 「私またここに来るかもしれない。別に構わない?」「大歓迎ですよ、菜月先輩♪」          その後は他愛のない話をし、私たちは別れた。                            次の日、私は夏休みにもかかわらず、昨日と同じように補習のため学校への道のりをトボトボと歩いていた。今日も昨日と同じくらい清々しい青空が広がっている。そんな空を見ながら、なんとか学校に辿り着いた。          「菜月〜今日も補習ご苦労さん!」        友達の松島千咲が校庭から叫んだ。        「暑い中ご苦労さん!そっちも部活頑張れよ!!」 私は千咲とこんなやり取りをし、ふと校庭で練習をしているサッカー部の方を見てみた。私は帰宅部なので、サッカー部はもちろん他の部活の練習さえ見たことがない。そんな私が珍しく練習風景を見ていた。と、私は一瞬自分の目を疑ってしまった。だってそこには・・・。        「お・・小崎くん・・・?」           なんと私の目には炎天下の中楽しそうにサッカーをしている小崎隼人が確かに映っているのだ。     「よし、そろそろ休憩にするか。」        その声を合図に小崎くんも他の部員もタオルを取りに行ったり、水分補給をし始めた。その時、小崎くんがこっちを振り向き満面の笑みを向けてきた。    「菜月先輩〜!補習頑張って下さいね〜!」    あの馬鹿!まわりの人たちが哀れそうに私のことを見てるじゃないか!!って・・・待てよ、私・・・  「補習〜!!??」   慌てて時計を見ると、針は開始時刻を十分も過ぎているではないか!     「遅刻〜!!!(涙)」                          補習もとりあえず終わり(みっちり叱られましたけど)、私は下駄箱で靴を履きかえ校門に向かった。空を眺めようとしたら、校門に寄り掛かっている男子生徒を見つけた。どうせ彼女待ちと言ったところだろう。
「あ、先輩!」     あの男子生徒は年上と付き合ってるのかぁ〜年下と付き合う人の気が知れない。「ちょっと無視ですか?」ありゃりゃ、可哀相に。 「いや、マジへこむんですけど・・・」      なんだか可哀相になってきた。頑張れ年下ボーイ! 「おいっ!先輩!!・・菜月!!!」       ・・・ん?今私の名前呼んだ?それとも空耳?   少々困惑気味に顔をあげてみた(先程までの私は一人妄想をしていたため下を向きっぱなしであった)。 「・・・あら、小崎くんじゃありませんか。」   校門で待っていたのは彼だったのだ。しかも待っていた相手は私だったらしい。「菜月先輩あんまりですよ!!」         小崎くんが膨れっ面で私を見てきた(不覚にもその顔が可愛いなんて思ってしまった)。        「だって、まさか君が私のこと待ってるなんて思わなかったんだもの。」   「先輩、補習はどうでしたか?」         ちょっとにやけ気味で聞いてきたものだからイライラしながら「怒られたわよ」と答えた。
「あ、やっぱり。」   そう言ってすまなそうに笑った小崎くんは私の手を引いて、「アイス奢りますよ!」と言った。      私たちはコンビニでアイスを買い、昨日の公園へと足を向けた。案の定誰もいない。         「あっちぃ〜!はい、先輩アイス☆」       「あ、ありがとう。」  私は木の下に座り、小崎くんは私の隣で立っている。「それってさ、昨日僕が食べてたやつですよね?そんなに美味しかったですか?」   
「へ!?あ、うん!!そう!!そうなの!!!」  私は訳も分からず取り乱していて、自分で自分が恥ずかしかった。実は昨日のことが頭から離れなくてつい選んでしまったのである。「あ、そういえば小崎くんって私と同じ高校だったんだね。びっくりしたよ〜」私の言葉に少し寂しそうな顔をした小崎くんが、小さな声で「僕は気付いてたんだけどなぁ。」と呟いた。すると小崎くんがいきなり木を登り始めた。    「小崎くん!?」    私が一人あたふたしているうちに小崎くんは木を登り切ってしまっていた。  「ここに登ると、なんだか空を掴めるんじゃないかなぁ、っておもうんです。」私はそのまま小崎くんの言葉を待った。      「でも今の僕には空よりも掴みたいものがあるんです。」          私が小崎くんに「何?」と質問しようとしたら、彼は木から私の前に飛び降りてきた。真剣な顔に私は思わずドキッとしてしまった。            「菜月だよ・・・」               その言葉で私は小崎くんをまっすぐ見れなくなってしまった。顔が火照ってしまって、今の私はすばらしいほど真っ赤になっていることだろう。       「いきなりこんなこと言われても困るよね。でも僕ずっと先輩を見てたんだ。なんでかわからないけど、不思議と目が行っちゃって。先輩のこと何一つ知らなかったから、きっとこのまま憧れの人で終わっちゃうだろうな、って思ってた。でも先輩は僕の前に現われた。びっくりした。夢じゃないかって思ったくらいだった。」         小崎くんは今まで以上に優しい笑顔で、目が離せなくなった。        「僕先輩のこともっと知りたいです。

・・・僕じゃ先輩の青空になれませんか?」                私の目には涙が溢れていた。           
「・・・なってくれるの?どこにも行かないでくれる?

・・・傍にいてくれますか?」          
私の小さな小さな声を彼はちゃんと聞き取ってくれて、私を優しく抱き締めながら「誓います。僕はずっと先輩の傍にいます。」と耳もとで囁いてくれた。私の頬にはさっきよりもたくさん涙が流れていて、私の中のモヤモヤが少し消えた気がした。                                            青空はどこまでも広がっていて          でもちゃんと私の傍にいてくれたのですね                 私は今日も空を見上げて あなたを思います                ―やっと見つけた       私だけの青空――

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