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long novel
第一章 運命の歯車(後編)
男達は顔に笑みさえ浮かべている。
「さぁ、どうしてくれようか?」
レイの後ろで少年が短く叫んだ。その声を聞いて、レイがもう一度後ろを振り返る。そして、少年に「合図したら思いっきりジャンプしろ」と囁き、手を差し伸べた。
少年は震える手をレイの手に重ねて立ち上がる。
「おぉ、涙が出るねぇ。だがな、おまえら二人が俺たちを相手にできるわきゃねーんだよ!!おまえたちはここで終わりだ!!」
お頭がそう叫ぶと同時に、男達が一斉に襲い掛かってきた。
「今だ!!!」
レイは少年と繋いでいる手に力を込め、思い切り地面を蹴飛ばした。少年ももたつきながら一緒にジャンプする。
とその時、驚くことが起きた。なんと少年もレイも空高くで浮いているのである。
「下見るなよ。」と言うレイの声と少年の驚嘆の声が重なった。
「へ!!??ぼっ、僕どうなっちゃったの!!!???」
緑色の目は大きく見開かれ、その目は少しの怖さを含ませながらもキラキラとしている。
最高点まで達すると、二人は下へと急降下していった。地面から1・2mのところでスピードは減速し、男達から100mほど離れた地点に着地した。
「さぁ、走れ!!」
レイは再び少年の手を引いて走り出す。後ろを振り返れば、男達がアホ面でこちらを呆然と見ているのが見えた。

「へ!ざまーみやがれ!!!おっと、お前大丈夫だったか?」
レイは少年の顔を覗くように見る。かなりのスピードで走ってきたため、少年の息は上がっていたが、レイは平然としている。
「う・・うん。だい・・・じょうぶ・・・。」
何とか声に出せたものの、途中途中で乱れた呼吸が邪魔をした。
「もうちょいだ。町中に入っちまえばあいつらをまけるからな!」
二人は町へと全力で走った。
だんだんと店の数が増え、人々の声も聞こえるようになってきた。民衆の間をレイは上手く擦り抜け、その後に少年も必死に続く。右の路地に入り、やっと二人は足を止めた。
「よし、これで大丈夫だろ。おい、お前本当に大丈夫か??」
少年が胸を押さえて苦しそうな息遣いをしているのを見て、レイが再び心配し始めた。
「ごめん。俺、力の加減がどーも下手くそでさ・・・。」
あたふたし出すレイを見て、少年は息も切れ切れ言葉を絞り出した。
「君・・は、いったい・・・何者・・だい?なんで・・僕なんかを・・・助けてくれたの・・・?」
「俺はレイ・ウォーカー。この町じゃ結構有名な泥棒だと思うんだけどなぁ。」
「うん。君が泥棒なのは・・・知っているよ。僕、君がどこで生活してるかも・・・知ってるんだ。」
苦笑する少年に対し、レイは面食らった顔をしていた。驚きすぎて言葉も出ない。
そんなレイを見て、少年は慌てて付け加えた。
「だ、大丈夫だよ!?他の人には話してないし、僕一人で君を付けてたんだ・・・」
少年はやっとまともに会話ができる状態になったが、顔は下を向いたままだ。
「・・・俺に付いて来れたのか?今の速さだって死にそうなくせに・・・。」
「あはは。ほんと、君の速さは尋常じゃないよ。僕がどれだけ苦労したことか。
でも・・・君に興味があったんだ。だから毎日君を探しては追って探しては追って。その繰り返しだったよ。それでやっと見つけたんだ、つい最近ね。」
レイはその言葉であることを思い出した。いつだったか、昼寝をしようとしていた時に感じた視線・・・あれはこの少年のものだったのか。
「・・・少年、お前の名前は?」
レイの問いに少年は顔を上げてにっこりと笑い答えた。
「僕はサム。サム・リーディスだよ。
13歳。」
とても優しい笑顔をする。それにきれいな顔立ちをしている。
「俺より3つ下か・・・。そういやお前なんであんな奴らに絡まれてたんだ?」
そう聞かれた途端、サムの顔が少し引きつったのが分かった。
「僕の両親は、あの人たちにお金を借りていたんだ。でも父さんは戦争に駆り出されて生死もわからないし、母さんは流行り病で・・・。」
聞いてはいけないことを聞いてしまった、とレイは後悔した。サムはまた俯いてしまった。

「・・・俺と同じ・・か・・・」

この言葉はサムに向かって言ったのか、それとも自分自身に言ったのか。ただ小さな声で呟いた。その声がサムの耳に届いたようで、サムはゆっくりとレイを見上げた。
サムの視線に気づいたレイは再び口を開く。

「俺も両親はいない。何も覚えていないんだ。ただ・・・かすかな記憶が残っているだけだ・・・。」

それだけ言い、レイは口を閉じた。その視線は空へと移され、空よりもっと遠くを眺めているように思えた。
サムが何か聞きたそうに口を開きかけたが、言葉を飲み込んだ。目の前で空を見上げているレイの姿はとても悲しそうで、寂しそうだった・・・。


すこし冷気を帯びた風が、二人の髪をさらさらと駆け抜けていく


運命の歯車は、まだ動き出したばかり―――

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あきゅろす。
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