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long novel
第一章 運命の歯車(前編)
          
「こら待て!このこそどろめ!!」        そう呼ばれた少年は片手にパンを、もう片方の手にはミルクを持っていた。少年は風のように人々の間を擦り抜けていく。追い掛けてくるパン屋は、はぁはぁと荒い息遣いで、必死に少年を追い掛けている。そんなパン屋に構いもせず、少年は細い路地に入り、右へ左へと曲がっていき、すぐに姿を消してしまった。パン屋が大声で何か言っていたが、何を言っていたのかまでは聞き取れなかった。少年は後ろを振り返り、右・左と確認してから、建物と建物の狭い間に体を滑り込ませた。大人が入るのはまず無理である。  そこを出ると、ゴミで溢れかえっている空き地に出た。この辺りは随分と前に人気(ひとけ)がなくなってしまっていて、いるとしたら野良犬や野良猫・カラスだけだ。少年は空いているスペースに腰を下ろし、マント代わりに羽織っていた黒い布を外して、その上にパンとミルクを置いた。すると、そこにいた動物たちが少年のまわりに集まってきた。「そう慌てんなって。ちゃんとやるからさ。」   そう言って近くにいた犬の頭を撫でてやった。この少年はそれほど体が大きいわけでもなく、かといって小さいわけどもない。ごく普通の少年だ。ただ、瞳は吸い込まれるような澄んだブルーアイで、黒髪が一層その瞳を引き立たせていた。それは、感動と恐怖のどちらをも感じさせるものである。          「まったく。あのパン屋のおやじ、この俺に敵うとでも思ってるのかよ。なんだって、俺はどろぼうのレイ・ウォーカー様だぜ!?」レイと名乗る少年は胸を張って言った。      「さてと、そろそろ食うとするかな!ほらよ、仲良く食うんだぞ!」     そう言って、自分が食べる以外のパンを動物たちに与え、レイはパンを美味しそうに頬張った。

次の日もそのまた次の日も、レイはいつもとかわらない生活を送っていた。だがそんなある日・・・   空はとても青く澄んでいて、おまけに気持ちの良い風が吹いている。レイは空き地に横になっていて、まわりでは猫たちもごろごろしている。けれど、レイはふと視線を感じて起き上がった。誰かに見られていたような気がする・・・辺りを見渡しても変わったことは何一つない。ただ風の音と猫たちの寝息が聞こえるだけ。     
「俺も疲れてんのか?」
そう言って欠伸をし、また横になって眠りについた。まさかそこにいた人物が、自分の人生を大きく変えるということを知りもせずに・・・
レイが目を覚ましたのはお昼すぎだった。伸びをして立ち上がり、マント(黒い布)を羽織った。
「さて、ちょっくら町の様子でも見てくるかなぁ〜」
町はいつもと変わらない。あちらこちらに店が並んでいるものの、品数が少ないことが目に付く。昔はもっと多くの店が出ていたし、もっと活気があった。何もかも、十年前に始まった戦争が原因であった・・・だが、なぜその戦争が起きたのか、その理由は誰も知らなかった。ただ極一部を除いては・・・



レイは傍の店にあるりんごをひょいと取って、それを噛りながらぶらぶら歩いた。もちろん、お金など払っていない。
 そのうち、町の中心部から少し離れたところまで来ていた。適当に横道に入ったレイは、話し声を耳にしてはたと立ち止まった。

「てめぇ、ふざけるんじゃねぇぞ!?いつまで待たせる気だよ!おらっ!!」

ドカッ!!

男の声がしたかと思うと、その後に呻く声が聞こえてきた。さらに他の男たちの声もする。どうやら複数いるらしい。
「・・・ないんです。もうこの前渡した分で最後だったんです・・・」
声の主は少年のようで、ひどく怯えている。
一人の少年に対し、複数の男たちが取り巻いているようだ。
レイは建物に沿って、話し声がはっきりと聞こえるところまで距離を縮めた。
また男がしゃべりだす。
「なんだとぉ!?俺たちに金借りといて返さねぇ気かぁ!?っざけんじゃねぇぞ!!」
レイは更に近付き、物影に隠れながらその様子をうかがった。
「す、すみません!・・・お金は・・必ず返しますから!お、お願いです!!もう少し待って下さい!!」少年は必死に男に頼んでいる。ここからでは少年がよく見えないが、男たちは見える。やたらと威張っている奴が頭のようだ。そのまわりをいかにもたちの悪そうな連中が笑みを浮かべて囲んでいる。
「そんなこと言ってよぉ、逃げるつもりじゃねえのかぁ??」
「ぜっ、絶対に返し・・・ますから・・・・」
「信用できねぇんだよなぁ〜」
(「やばい!!」)
レイは反射的にそう感じ、物影から飛び出して男たちの中へと突っ込んでいった。男が拳を物凄い勢いで少年へと振り下ろした・・・

ベキッ!!!


鈍い音がしたが、それは少年のものではなかった。
少年は閉じていた目を開いた。

すると、目の前には黒い布を纏い、黒髪を後ろで一つにまとめた少年・・・
「き・・きみは・・・」
レイはお頭らしき奴が振り下ろした拳を腕で受けとめていた。あの鈍い音はレイの腕の骨が砕けた音だったらしい。完全に折れてはいないがやはり変な方向に曲がっている。レイの後ろでは少年が小刻みに震えていた。
まわりにいた男たちも我に返ったようだ。頭の男も状況を理解し始めたらしく、レイを睨み付けている。
「・・・誰だ、おまえは?俺の邪魔をしようってのかぁ!?」
レイは怒りに震える男の腕を払い、すっと立ち上がった。
後ろで少年がびくついたのがわかった。
「お前ら、子供相手にこんな大人数で寄ってたかって!!恥ずかしいと思わねぇのかよ!!」
レイはそう言い終えると、びくびくしている少年を見た。さっきは男たちが壁になっていたが、今見てみると少年は体中痣や傷だらけであった。緑の瞳には涙を浮かべ、綺麗な金髪には血が付いている。年はレイとそれほど変わらないだろう。
レイは前に向き直り、男たちを鋭い目付きで見回した。男たちはレイの真っ青な瞳から目が離せない。それは冷たく光り、身震いするものさえいる。そんな中、お頭がレイに一歩近づいてきた。
「上等だ。俺たちに歯向かうとはたいした度胸だぜ。誉めてやる。だがな、お前たちを見逃す気なんてないぜ?」
その言葉を合図に、男たちが一斉に二人に詰め寄ってきた。


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