long novel 中1,きみの笑顔 午後の授業が始まると、俺は早速行動を起こした。 〔久保田なんでしゃべんないの?〕 ざざっとこの一言を、破いたノートの紙に記す。そしてスッと隣の机に置いた。 久保田は俺の突然の行動に、今まで動かしていた鉛筆を止めて俺を見た。 俺はじっと黒板を眺める。 隣で動く気配がして無意識にそちらへ顔を向ける。 え? 隣には俯いて小刻みに震えている久保田。髪を耳にかけていたため、ちらちら顔が見える。 頬に涙を流し、とても悲しそうで切なそうな表情・・・。 久保田は怯えていた。 びっくりした俺はおどおどしながら何もできずにいた。 目線を黒板へと戻すが、隣にいる久保田が気になってしょうがない。 耐えきれなくなった俺は椅子を思いっきり引いて立ち上がった。傍らで久保田がびくついた。 「菊地、突然どうした?」 桑原が驚いた顔をして尋ねてくる。 「具合が悪いんで帰らせてください。」 桑原は普段決して使うことのない敬語を使った俺に、ただ事ではないと感じたようだ。 「親御さんに迎えに来てもらうか?」 「・・・一人で帰れます。」 「わかった。一応家に電話入れとくから。おまえは早く帰る支度しろ。」 俺は桑原に言われた通り、鞄の中に荷物を入れ始めた。周りの生徒たちが心配そうに言葉をかけてくる。それに俺は適当な相槌を返した。 空は真っ青だ。健一の言った通りバスケ日和である。 気付いたら俺はいつもの広場に来ていた。手にしているバスケットボールに目をやり、ゴールに向けて打つ。 肩からかけている鞄が上下してゴールの邪魔をした。 リングに当たることなく地面を弾むボールをただただ見つめる。 あんなに悲しそうな顔をする人を初めて見た。 胸が締め付けられて、乾燥しきった口からは何の言葉も出なかった。 俺は最悪だ。 今までに一度も感じたことのない、大きな後悔と悲しみが俺を襲う。 「・・・ボール」 地面に体育座りをして膝のあいだに顔を埋めていた俺の頭ごしに誰かの声がした。 聞き覚えのある声。 少し震えている。 そっと頭をあげてみる。 「・・・くぼ・・た・・・?」 俺の前にはボールを手にして突っ立っている久保田がいた。 太陽を背にしているため、久保田の表情はわからない。 「ごめんなさい・・・」 上からこぼれ落ちてきた声に目を見開く。それと一緒に綺麗な涙が降ってきた。 「え・・・なんで?」 相変わらず久保田がどんな表情をしているのかはわからない。 俺はまた久保田を泣かせてしまったのか? 久保田がしゃがみこんで目線が同じくらいになる。 その顔には寂しさが浮かんでいた。頬には無数の涙の跡。 「私ね、嬉しかったよ。」 目を細めて笑いかける久保田は少しぎこちない。 「私・・・学校に行くの久しぶりで。みんなとどうやって仲良くなればいいのかわからなくて・・・ごめんなさい。いやな思いをさせちゃって・・・ごめんね。」 真っ黒に澄んだ久保田の瞳から再び大粒の涙が溢れ出る。それを見ていたらこっちまで泣きそうになってしまった。 「久保田は悪くない・・・ごめんな。もう何も聞かないから。久保田の嫌がることしないから!だから・・・もう・・・泣かないで。」 一瞬びっくりした久保田は少し恥ずかしそうにして口を開く。 「・・・菊地くん。私の友達になってくれる?」 久保田の意外な発言に俺は一度固まる。その後急いで返事を返す。 「も、もちろん!」 俺の言葉にとても嬉しそうな顔をする久保田。 そんな久保田の笑顔は俺の心を晴らしてくれた。 きみの笑顔は俺の喜び backnext [戻る] |