素直なアマノジャク【連載中】
4
あたしの大声で店内の視線が一斉にこっちに向けられる。
しまった…!
客とモメ事を起こしたらクビになる…!
ハッと我に返ったあたしは『客を怒鳴りつけてクビ』という自分の今後を連想して、
言葉を発することも、目線を動かすことも出来ずに動きを止めた。
人間って、こういう状況になるとホントに冷たい汗が出るらしい。
こめかみに冷たい汗を感じながら、頭の中で巡るのは『どうしよう』と『やってしまった』の2つのみ。
店長が出てくるまでに言い訳を考えなくちゃ…と、いくら思考を巡らせても、
結局はそれしか頭には浮かんでこなくて。
なんの解決法も見つかることもなくて。
時間が経つにつれて、だんだん冷静になってきて『せっかくこのバイトに慣れてきたのに…。』なんて、ボンヤリ思い始めた頃。
「…ごめん。」
突然、目の前の彼があたしに向かって謝罪の言葉を口にした。
顔を上げると、申し訳なさそうに微笑んだ彼と目が合った。
…やっぱり『賭け』か『罰ゲーム』だったんじゃない。
そうだろうと思ってはいたから、頭は妙に冷静で、もう感情を表に出して怒ることはないけれど、
それでも悔しさだか虚しさだか行き場のない感情だけは残っていて、無性に泣きたい気持ちになった。
なんであたしなの?
なんでわざわざあたしにしたの?
なんでこんな知らない子達の遊びに付き合わされたあげく、あたしはバイトをクビにならなきゃなわけ?
怒鳴ってしまった自分は悪いのはわかる。
お客様にはいつも笑顔がモットー。
何を言われても『お客様』は『お客様』。
どんなにムカツクことがあろうとも、サラッと流さなくてはいけない。
わかってる。
わかってはいるのにあたしにはそれが出来なかった。
出来なかったから、つい『お客様』に向かって怒鳴ってしまった。
なぜ出来なかったのか。
それは、あたしが、
『男嫌い』だから―…。
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