素直なアマノジャク【連載中】
18
「あの子、まだヤらせてくんないの〜?」
「……だったらなんだよ?」
「無理矢理ヤっちゃえば?」
「バカ言うな。」
「えー。いつまで待つの〜?」
「千晴がその気になるまで。」
サッカー部の部室に入ろうとして、聞こえてきた会話。
わからないわけがない。
聞き間違えるわけがない。
大好きな、ショウタ先輩の声。
相手はたぶん、ショウタ先輩と同じ3年生でサッカー部のマネージャーのヒカル先輩。
立ち聞きする気はなかったんだけど、なんとなく入りづらくて。
部室に置いてこなきゃいけない物を持ってたから、そのまま帰るわけにもいかなくて。
入ることも帰ることも出来ず、部室の前に突っ立ったままのあたしの耳に聞こえてきたのは、
「あたしがヤらせたげよっか?」
ヒカル先輩の猫なで声だった。
あたしの胸がザワつく。
なんだかわかんないけど、すごくイライラする。
こんな感情は初めてだった。
ショウタ先輩はあたしにとって初めての彼氏。
何もかもが初体験のあたしは、ショウタ先輩と一緒にいる間も緊張しっぱなしでうまく話せなくて、嫌われてないかなとか愛想つかされてないかとか。
ショウタ先輩はモテるから、ホントにあたしでいいのかとかホントは遊ばれてるんじゃないとかいつも不安に思っていた。
でもショウタ先輩は、ヒカル先輩の甘い誘いにも動揺することなく、
「俺、浮気はしない主義なんですー。」
冗談っぽく一蹴した。
ショウタ先輩を信じてないわけじゃなかったけど、ホッとした。
ヒカル先輩は男関係でいいウワサを聞かないのもあり、ショウタ先輩が誘いを断ったことに胸を撫で下ろした。
―…のも束の間。
「バレなきゃいいんじゃん?」
ヒカル先輩は、まだ引き下がらなかった。
「そういう問題じゃないだろ…。」
「部室ヤバい?うち来る?」
「自慢の彼氏はどうしたんだよ。」
「別れた。慰めて〜。」
ガタンッと、イスだか机だかが動く音が聞こえた後、
衣擦れのような音が響く。
「…っ…!?」
「シよ?」
「しねぇよ…!」
「ちはるちゃんにはナイショにしといてあげるのにー。」
「…何言って…、」
「たまってんでしょ〜?」
「……っ。」
…あたしは、それから二人がどうなったかなんて知りたくなくて。
走って走って。
必死に学校から逃げた。
途中で雨が降ってきたことも気にならないくらい、あたしの頬は濡れていた。
部室の前に置いてきたサッカー部の備品で、ショウタ先輩はあたしがあの時、部室の前にいたことに気付いたと思う。
何度も何度も電話がかかってきたけど、一度も電話に出ることはなかった。
何度も何度もメールがきたけど、一度も読むことなく携帯を新しくかえた。
サッカー部のマネージャーを辞め、半年間ショウタ先輩を避け続けたあたしは高校2年生になり、
あの日から一度も話すこともないまま、ショウタ先輩は高校を卒業した。
でもあの日から1年経ってもまだ、大好きだったショウタ先輩に裏切られたって気持ちは消すことが出来なくて。
ショウタ先輩だけではなく、『男』はみんなそういうものなんだと。
そういう生き物だから信用出来ないんだと思うようになった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!