素直なアマノジャク【連載中】
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捨てられた子犬のような大きく潤んだ瞳で見つめられると、こっちがものすごく悪いことをしたような気持ちになってくる。
けど、それをグッと抑え込み、
「やっと気付いた?」
冷たく言い放ってあたしは自分の仕事に戻った。
知り合いでも何でもない。
何の関わりもない、ただの他人。
あたしは彼らのくだらない遊びに巻き込まれようとしていたところをうまくかわしただけ。
『あおいそら』がかわいい顔してようが、捨てられた子犬のような悲しそうな目をしてようが。
そんなのあたしの知ったことではない。
むしろあたしは被害者。
何も悪くない。
夕方のお店が最も忙しい時間帯に入り、絶えることのない料理をそれぞれのテーブルに運ぶ途中、
ふと、さっきまで『あおいそら』が座っていた席が目についた。
特に意識してみたわけではなかったけれど、今その席には3人組のおばさんが座っていることに気付く。
他のお客さんが座ってるってことはトイレにいってるわけでもなく、もう店内のどこにもいないんだってこと。
そして。
それ以来、彼は姿を見せなくなった。
その次にバイトに行ったときも。
そのまた次にバイトに行ったときも『あおいそら』は来なかった。
2週間が経っても『あおいそら』がお店に姿を見せることは一度もなかった。
あたしは、今日も他のお客さんが座る彼の特等席に目をやって彼がきていないことを確認する。
寂しいなんて思わない。
こっちはいい迷惑だったんだから罪悪感なんて感じるわけがない。
もう『あおいそら』と会うことはない。
もうあんなくだらないお遊びに付き合わなくて済む。
男なんて、みんな嘘つきで。
男なんて、みんなみんな女をバカにしてる。
だからあたしは、男を信じない。
『あおいそら』の人懐っこいかわいい笑顔も、言葉も、全部ウソだった。
ただ、それだけのこと…。
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