あたし限定ホストクラブ2【120ページ完結】
缶コーヒー
…確かに、手を温めるくらいなら身体に害はないかもしれない。
かなり手先が冷たくなり、スグルの温かい手が恋しいあたしは、早口でお礼を言って、あやしい男から缶コーヒーを受け取った。
寒さで縮こまった手先に温もりを感じて、ちょっとホッとする。
男は、あたしに缶コーヒーを手に取ったのを確認すると、またニッコリ笑った。
「…なんであたしに声をかけたんですか。」
あたしが問い掛けると、男は、
「話がしてみたかったからだよ。」
笑顔を崩さず答える。
やはりこれはナンパなんだろうか…?
スグルと合流するまででいいっていうのは、油断させて話をするナンパの手口なんだろうか?
「……。」
「……。」
「……。」
「…オレ、そんなあやしい?」
整った男の顔をじっと睨むあたしに、男が困ったように笑う。
「…あやしくないわけないじゃない…。」
ボソッと呟いたあたしの言葉に、
「まぁそうなんだけど…。」
苦笑しながらポリッと鼻の頭を掻いた男は、
「指一本触れないし、話だけ。ダメかな?」
肩を竦め両手を軽く上げて見せた。
なぜそこまでしてあたしと話がしたいのか理由がわからない。
さっぱりわからない。
自分で言いたくはないけど、あたしはかわいい方ではない。
ナンパならもっとかわいくて、気軽に話してくれる女の方がいいはずで。
警戒心丸出しの不細工なあたしにかまう時間があったら、他の子に声をかけた方が絶対いい。
…だからこそ、あやしいことこの上ない。
「…他の人が来て、車に乗せられたりするの?」
あたしは缶コーヒーで両手を暖めながら男を睨みっぱなし。
缶コーヒーもらっといてこの態度はどうかと思うけど、そんなこと言ってられない。
男は、睨むあたしをキョトンと見つめ、
「残念ながら、オレ1人だから。安心していいよ。」
楽しそうに笑い始めた。
ホントにこの人は何の目的で…?
あたしが眉間にシワを寄せてじっと男を観察していると、
ヴーーヴーーヴーー
突然、手の上で携帯電話が震え、あたしは思わずビクッとする。
男を警戒するあまり、スグルに電話をかけることすら忘れていた…。
男はあたしが手に持った携帯電話を指差してニッコリ笑ってみせると、
「電話、繋がったね。では、邪魔者は消えますか。」
あっさりあたしに背を向けた。
ホントにそのまま去っていこうとする男の後ろ姿を見ながら、手の中の温もりを感じたあたしが、
「…コーヒー、ありがとう。」
それだけ呟くと、男は後ろを向いたまま片手を上げて…、
「またね、アカリちゃん。」
名乗っていないはずのあたしの名前を口にして、人込みに紛れてあたしの視界から消えた。
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