あたし限定ホストクラブ2【120ページ完結】
迷子
お賽銭を入れたあと、スグルと手を繋いだまま、賽銭箱の前に列ぶ人の流れに逆らって歩く。
賽銭箱はすぐに人だかりで見えなくなり、
「寒い?アカリの手、冷たい。」
あたしの冷たくなった手は、スグルのあったかい両手でギュっとはさまれた。
スグルの温かさがあたしの手を伝わって。
せっかくの願い事もむなしく、スグルをドキドキさせるより、やっぱりあたしがドキドキしてしまってる。
初めての深夜の初詣だからか。
月明かりに照られされたスグルがいつも以上にかっこいいからか。
理由はわかんないけど、なんだかいつもよりドキドキしてしまうような気がする。
「あったかい飲み物でも買う?」
スグルがあたしの顔を覗き込んで優しく笑って…。
…わかってる!
わかってるの!
スグルは外でキスはしないし、そんなつもりはなかったのはわかってる。
わかってるんだけど…、
キスが出来そうなくらい近くに、突然近づいてきたスグルの顔に、あたしの心臓は飛び上がって。
「あ、あっちに自販機あったかも…!」
って、スグルと別の方向に体を向けた瞬間。
ドンッ。
誰かにぶつかられて、その拍子にスグルと繋がってた手が離れた。
慌てて振り返ろうとしたけど、あっちこっちからいろんな人にぶつかられて思うように動けなくて。
どんどん押されて。
スグルのいる方向と別の方に流されていって…。
「アカリ…!」
スグルが慌ててあたしを呼んだ声がかすかに聞こえたけど、
あたしがなんとか振り返ってみたときには、スグルの栗色の髪は、もうどこにも見えなくなっていた。
あたしは、人波に飲まれたらしい…。
自動販売機に走ったはずのあたしは、目的の自動販売機にすら辿り着けず、しばらく人波に揉まれた後、人が少ない敷地の端っこに吐き出された。
人込みから解放され、ヨロヨロと、まわりを見渡してみると、どこを見ても、人、人、人。
この中からスグルを見つけだすのは至難の技。
真冬にカブトムシを見付けるくらい難しいに違いない。
でも、あたしは意外と冷静で。
困ったときの文明の利器!
あたしは、その場にしゃがみこんで携帯電話を取り出すと、スグルに電話をかけた。
場所さえわかればどこかで合流出来るはず。
携帯電話ってなんて便利なの!
文明バンザイ!!!
エジソンだかアインシュタインだか、知らないけど!!!
…などというあたしの考えは甘かったらしい…。
カウントダウンが始まる今の時間、混雑した電話回線はつながることはなくて、何度かけなおしても機械的な音声が流れるだけ。
さっきまで冷静だったあたしは、携帯電話を見つめて息を呑んだ。
どうしよう。
どうしよう。
スグルとはぐれた…!
高校生にもなって迷子になった…!!!
寒いのに、変な汗が出てくる。
スグル…どこにいるの…!?
あたしは、どうすれば…?!
こんなとき、どうすればいいのぉおおおお!?
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