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あたホス番外編〜キョウヤ〜【13ページ完結】
母親になりたい


「家の人にはちゃんと言えよ?」




キョウヤの部屋で住み始めてから、あたしは、一度も家族と顔を合わせることがなかった。
荷物を取りに一度だけ家に戻ったっきり、家には帰ってない。




キョウヤの子供が自分のおなかの中にいることがうれしい。
親にも知ってもらいたいって気持ちもある。





でも…、





『出来の悪い娘が、結婚もせずに勝手に作った子供』




そんな風に見られるかもしれない。
『おろせ』って言われるかもしれない。

おなかの子供をそんな目で見られるんじゃないかと思うと、こわかった…。


キョウヤの子供だから生みたい。
あたしは、この子の母親になりたい。

みんなに祝福されて生まれてきてほしい。





「…うん。わかってる。」


不安を抱えながら、あたしは、家に電話をして両親そろって家に居る日を確認した。









両親が家にいると確認をとった日。


キョウヤと一緒に家に入ると、両親はちょっとだけ驚いた表情を見せたけど、
キョウヤを見て、勝手に納得したようだった。





あたしのことなんて、その程度の関心しかない。
『どうせ子供が出来たんだろ』って思われてる。


でも、言わせない。
おなかの子供にそんなこと聞かせたくない。
そんなこと聞かせるくらいなら…。





「子供が出来たから、キョウヤと結婚する。この家には迷惑かけないから。」

あたしは、早口でそれだけ言うと、踵を返した。



さっさと出て行こう。
何か言われる前にいなくなればいい。
あたしは、キョウヤと、この子と一緒に居れればそれでいい。



早足で、家を出ようと玄関の敷居を跨ぐ。






ふいに、腕が引っ張られて、あたしは前に進めなくなって立ち止まった。



振り返ると、キョウヤがあたしの腕をしっかり掴んでいて。


「オレ、まだ何も言ってねぇ。」

クスッと笑うと、両親に向き直り、深々と頭を下げて、キョウヤはまず、名乗った。



そして、

「ナツコさんを僕にください。」

そう言って、頭を上げて両親をじっと見て。





「お決まりのセリフだと言いたいことが言えないな…。」

フッと笑った。




キョウヤは、真剣な顔をして、もう一度両親に頭を下げ、一呼吸おいてから口を開く。


「遊びで出来た子供ではありません。オレはナツコを心から愛してます。」



両親も、真剣な顔をして、キョウヤを睨むくらい見ていた。



顔を上げて、両親と視線を合わせると、キョウヤが再び口を開く。

「ナツコも、生まれてくる子供も、オレが『幸せ』にします。だから…、」


キョウヤは、一旦そこで言葉を切り、あたしを抱き寄せて笑った。




「祝福してください。ナツコと、この子が『幸せ』になれるように。」





あたしは驚いた。


キョウヤも、あたしと一緒…。
『祝福されて生まれてきてほしい』と思ってる。


でも、キョウヤは両親に認めてもらおうとしてる。




…あたしは逃げようとしてた…。

おなかの子の、おじいちゃん、おばあちゃんになる人なのに、
あたしは会わせることさえしないつもりだった。


この子が、何か言われるとしたら、あたしがしっかりしてないからだ。
あたしがしっかりしてれば、この子が何か言われることもない。
あたしがしっかりした母親になればいい。




「…あたし、」

気が付けば、あたしも口を開いていて。



「キョウヤが好きだから、キョウヤの子供を生みたい。キョウヤと、この子と、『幸せ』になりたい。」

こらえきれないほど溢れてきた熱いものが、





「あたしは、この子の母親になりたい…!」


あたしの頬を伝って落ちた。




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あきゅろす。
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