あたし限定ホストクラブ1【85ページ完結】
『スグル』
外に出てすぐの駐車場で、ユウさんは黒いセダンの鍵をあける。
「ここ、乗って。」
助手席のドアを開けてもらったあたしは、遠慮がちにシートに座った。
ユウさんは、あたしが乗ったのを確認してから助手席のドアをゆっくり閉め自分は運転席に乗り込んで。
車は勢いよく夜の街に走り出した。
「アカリちゃんだっけ?」
さすがはホスト。
営業スマイルを絶やさない。
「はい。」
あたしが短く返し、
「ユウさん、でしたよね…?」
と名前を確認すると、
「あー…『ユウ』は店での名前で…。
アカリちゃんには『スグル』って呼んでもらおうかな。」
ユウさんが言った。
「…スグル?」
不思議そうに聞き返すあたしに、ユウさんがフッと優しく笑う。
「俺の本名。『優しい』って字で『スグル』。」
『優しい』と書いて、
本名は『スグル』。
お店の名前は『ユウ』。
ママは、この人のことを『ユウ』と呼ぶんだろうか。
『名は体を表す』と言うけど、
優しそうなこの人の笑顔は、きっと営業スマイルで。
あたしには、この人がどんな人かなんてわからない。
これから先も、きっと知ることはない。
あたしは、今日一日だけ、
『ホスト』と『お客』として相手をしてもらうだけ。
ただそれだけの関係だから…。
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