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「しっかりしろ!」
ザバンと言う音がして、たくさんの空気に触れた耳が痛かった。浅瀬まで引き上げられたオレは、ゲホゲホと咳き込みながら助けてくれた人物をぼやける視界で捉えた。青の服に白のズボン。視線を上げれば濡れた黒の髪に水の滴る肌、大丈夫かと言葉を紡ぐ薄い唇にすっと通った鼻筋、それから、漆黒の瞳。カチ合った瞬間、身体が燃えるように熱くなった。耳にかかった溜息に全身が振るえ、思わず突き飛ばしてしまった。
「よく、そんな態度が取れるな……」
気付いた時には遅かった。サスケの言っていることはもっともだった。けど、オレは何も言えなかった。サスケのあの距離での声と、顔と、触れていた肌を思い出すと、嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまって、とても素直になんてなれなかった。素直な言葉も態度も、出てきやしなかった。
「助けて、悪かったな」
そうこうしているうちに、冷たい言葉を置き去りにして離れていくサスケ。また、サスケを怒らせてしまった。違う、違うんだ。待ってくれよ。なんでこうなっちまう。なんで素直になれないんだ。伸ばした手が宙を掻いた。傷つけたいわけじゃないのに。悲しませたいわけじゃないのに。どうすりゃいいんだ――!
入れ違いでサクラちゃんとカカシ先生が駆けつけてくれた。そっと肩をたたいてくれる優しい手に、心配そうに声をかけてくれる温かい言葉。でも、それじゃ足りなかった。唇を痛いくらい噛む。窒息しそうだった。もう水の中じゃないのに、溺れてるみたいに苦しい。息が詰まる。たった一言、言えばいいだけなのに。それだけなのに。
「ナルト」
「ナルト」
それだけ、なんだ。
名前を呼ぶ声に、気がついた。灰と碧色の瞳が確かにオレを励ましてくれていた。行って来いと、大きく頷いていた。
「待てよ……」
唸るように吐き出した言葉。振り向かない背中が遠く感じる。まだ覚束ない足取りで追いかけて、肩を掴まえて、無理矢理こちらを向かせる。再び相見えた黒の瞳に、全身が沸騰するのがわかる。それでも、伝えなきゃならない言葉があるんだ。
「ありがとう」
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