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消えた黒猫、中
次第に微睡む思考の中で、オレはサスケとの思い出を辿る。

小学校の頃は常に敵対視してたな。でも、今思えば楽しかった。自分の気持ちをなんの躊躇いや戸惑いもなく、素直に言葉や行動で示していた。サスケがやることなすことすべてに腹が立って、全力でぶつかって、毎日懲りずにケンカした。

中学生になっても、オレはそんな関係が続くと思っていた。けれども、サスケは私立の学校に進学して、別々の生活を送ることになった。

最初の頃こそ、清々すると思っていたが、次第になんとも言えない寂しさを感じるようになった。仲間とつるんでいるのは楽しかった。一緒に馬鹿やって、騒いで、笑って。大切な、仲間だ。だけど不意に頭に過るんだ。この中に、サスケがいたらどうなっていただろうって。

サスケだったら、どういう反応を返すだろう?なんて意見するんだろう?どんな行動を示し、どんな声色で、どんな顔をして、どうするだろうか……。

そんなことばかり考えるようになった。

家は知っていたから、衝動に任せて会いに行ったことも何度かあった。理由はいつもその場で適当に見繕って。初めて乗り込んだ時なんかは、勉強教えてくれって咄嗟にでまかせで言ったら「勉強道具も何も持ってきてなのにか」って笑われたっけ。それでも、サスケは受け入れてくれた。

サスケといる時間は本当に短くて、瞬きしたかしないかわからない内に終わってしまったように感じて。やっぱり、サスケと一緒にいたいと思った。

サスケの隣にいて、お互い刺激しあいながら、怒って、悲しくなって、認めあって、成長していきたいと思った。

思って、オレは即行動に移した。中学二年の夏だった。

その日の内にサスケの進学先を聞いて、頷くと、オレは学校へ置き勉してた教科書を取りに自転車を飛ばした。

次の日、キチンとやった宿題を提出したら、クラスはざわめき先生は目を飛び出して驚いていた。

今までにないってくらい勉強した。手が真っ黒になるまでノートに書き込みをして、鉛筆だこが初めてできた。宿題は毎日ちゃんと提出したし、テスト勉強も1週間前にはとっくに始めた。

誰もが奇妙な目でオレを見た。ドベで成績下位争いをしていたオレがいきなり勉強なんて。頭でも打ったか?病院行った方がいいんじゃない?変なもの食べた?と何度も聞かれたし、中には、オマエに足し算なんてできんのかよ。国語どころか、日本語だってまともにしゃべれないじゃねぇかってばよ〜。なんて馬鹿にしてくるヤツもいた。そう言われる度にオレは同じ言葉を繰り返した。





オレはサスケと同じ高校に行くんだ!





そして、春。オレは晴れてサスケと揃いのブレザーを身に纏い、同じ校門をくぐった。

正門に舞うサクラの花びらが、オレを歓迎してくれるようだった。

クラスは違ったけれど、サスケと同じ学校にいる。それだけで胸が踊った。一緒に登下校したり、昼飯食べたり部活したり委員会したり、ときには勉強したり。思い描いていたようなサスケとの学校生活が始まると思っていた。

でも、それは幻想だった。

最初の頃はよかったんだ。朝、一緒に登校して帰りは時間を合わせて落ち合い、部活見学を共にし、下校した。サスケとは昨日の続き見たいに何の隔てもなく話すことができたし、サスケがはにかんだようにして笑う顔が見たくて、くだらない話をたくさんした。

小学校のときみたいにぶつかることもなく、オレたちの関係は至って良好。部活だって、お互い何に入るかさんざん悩んだ挙句、結局選んだのは同じバスケ部だった。

けれど、やっぱり離れていた中学時代の3年間ってのは短いようで相当長い時間だったみたいだ。次第に、オレとサスケとの間には決定的な距離があることに気づかされた。

オレが必至こいてサスケに追い付こうと勉強していた間、サスケも同じように学び、自分の力に甘んじることなく勉強していたようで、学力の差は相変わらずだった。それどころか、サスケはいつも一歩先の勉強をしていて、初めての中間試験ではサスケとの力の差を一層感じた。

それだけじゃない。ある日サスケと昼飯を食おうと教室へ行ったら、今日はこいつも一緒に入れてくれと水月という男を紹介された。中学の時の仲間だそうだ。「よろしく」と挨拶する彼は友好的で乗りも良く、オレはすぐに打ち解けたが水月といる時のサスケはどこか仕切るようなリーダーっぷりを発揮していて、オレの知らない顔がそこにあった。

水月だけじゃなかった。重吾に香燐にキーさんにサスケにはサスケの仲間がいて、オレにはオレで中学ん時の仲間やクラスのヤツがいて、そのうちに、各々で過ごす時間が増え、次第にオレはサスケのクラスへ行くのをやめた。

行動を共にする時間が減り、中学の時とさして変わらない関係に戻ったようにも感じた。ただ、その距離が学校かクラスかの違いなだけで、物理的距離が近づいたからってお互いに切磋琢磨して認め合う関係になれるわけじゃなかった。そんなの、夢のまた夢だった。

おかしい。こんなはずではなかったのに。オレは、また何とかサスケに追いつこうと努力した。この離れていた3年間を取り戻せるわけじゃないから、それ以上にサスケの目につくようなことをやってのけようと躍起になった。けれども、物事そう簡単に行くものではなかった。オレは、サスケと唯一残された繋がりである部活を辞めなければならなかった。

バスケは想像以上にお金が必要だった。部費はもちろん、ユニフォームにバッシュ代、それから年間スケジュールで合宿に遠征と出費がかさむことが入部後にわかった。親――といっても養父だけど――には無理を言って私立の高校に進学させてもらったため、これ以上金銭面で負担をかけたくなった。何より、高校卒業後は就職か専門と進路は決まっていたから、バイトでもして社会経験をするいい機会だとその部分では割り切ることができた。

反面、またサスケと競争できる機会を失うことに焦燥を感じた。けれども、サスケに退部を伝えた時、大した反応もなく「そうか」と素っ気なく言われて、オレは、オレは……





なんでもないフリをしたんだ。

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あきゅろす。
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