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黒猫の鈴が鳴る、上
「おーす」
「はよ」
「放課後部活?」
「あぁ」
「待っててもいい?」
「バイトは?」
「今日休み」
「ふーん」
「多分教室にいると思うけど、終わったらメールくれってばよ」

「…わかった。」

オレとの約束をこぎつけられたサスケは了承の返事をすると、鞄の底から携帯を取りだし、カチカチとメール文を作成した。

サスケの白くスラリとした手の中に収まるメタリックブルー。そのスタイリッシュさとは裏腹に、いやに可愛らしい黒ねこのストラップが目につく。

サスケが文字を打つ度にゆらゆらと揺れるそれは、一緒に付いている薄緑の鈴とぶつかってチリリンと鳴った。

なんとなく。なんとなく今日は早く帰りたくなかった。別にサスケに用事があるとか、そう言うんじゃなくて。少しでも、学校に残る口実が欲しかっただけ。それに、サスケなら一緒にいても面倒じゃない。

それだけ。

メールを送信し終えたらしいサスケは、また携帯を鞄に放り込むと「今日はいい天気だな」と呟いた。

雲が多くてそんな天気に見えなかったけど、サスケがそう言うならそうなんだろう。オレはただうなずいて「そうだな」と返した。











そろそろ部活も終わりメールが来てもいいはずの時間なのに、オレの携帯はなかなか受信音を鳴らさなかった。

延びてるのかな、と思いつつも、いい加減オレも教室を出てかないと日直の教員にどやされてしまう。

オレは、中途半端のまま止まってしまった宿題を鞄へしまうと、サスケがいるであろう部室へ向かうことにした。

そこで待ってればよかったのに、と思っても後の祭りだった。

日も落ちて薄暗い廊下。昇降口に近い階段を降り、踊り場を折り返した所で人の声が聞こえてくる。

何の気なしに、そちらの方を向きながら降りていくとカップルらしき人の影があって、喧嘩まではいかないけど、話し合いみたいな雰囲気が出てて少し気まずかった。

あー…マズいとこに出くわしちゃったなぁと思い視線を反らしたけれど、その時たまたま目の端に映った男の、ズボンから覗くストラップにどうにも見覚えがあって。伏せていた顔を少しだけ上げると案の定、いつもより顰め面をした、その人だった。

サスケの修羅場に遭遇しちまった!と先程よりも一層苦い気持ちが胸に広がった。と思うや否や、サスケは彼女とチューをした。いや、された?背の低い彼女が下を向くサスケに、勢いよく背伸びをして唇を奪っていた。

フリーズってこういうことか。

オレは、降りかけた階段から動くことも、彼らから顔を背けることもできずに、ただ、キスするふたりを見つめていた。

心がスッと冷めていった。と同時に、超仲良しなんだな〜と染々思った。

告白したのは彼女からだって聞いている。だけど、サスケも彼女に惚れているのは確かだった。

サスケにしては大事に扱っている方だった。それに、彼女を見る視線が他とは違う。心が温かくなるような優しさを孕んでいるのをオレは知っていた。

一瞬だった唇の重なりが何分、何時間のように思えて。いつの間にか止まっていた呼吸を吐き出したのは、その唇が離れてからだった。

それから彼女は一言二言サスケと会話を交わすと、「じゃあね」と可愛らしい声で去っていった。

彼女が行くのを目で追ったサスケは、顔を戻すとようやくオレに気づいたらしく、バッチリと目があってしまった。

「悪ぃ、見ちった。」
「…いや。」

どんなに可愛い子ぶっても男の野太い声じゃ可愛さの欠片もない。

不可抗力とは言え、友人のキスシーンを覗き見してしまった後味の悪さから、思わず謝罪の言葉を口にしたが、サスケは首をふっただけだった。

「何、ケンカ?」
「そんなようなもんだ。」
「追いかけなくていいの?」
「今日は一緒に帰る約束だったからな。」

あ、オレと?

一瞬、誰との約束かわからずサスケを見ると

「惚けたツラしてんじゃねぇよ、ウスラトンカチ。」

と言われたので、

「ウスラトンカチって言うんじゃねー!」

と思い切り指をさしてやった。

下らない話をしながら帰った帰り道は、オレはいつになく饒舌でサスケはいつもより笑っていた。



それ以来、サスケとは一緒に帰っていない。

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