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サスケとイタチ
この気持ちはなんだ。

その人のことを考えるだけで、心が温かくなるような、胸がつまるような、そんな気持ちにさせられる。

こんな気持ち、今まで感じたことなんてなかった。

これはまさか……。







「兄さん。」

「なんだサスケ。」

時刻は夜。この家の長男うちはイタチが周囲の片付けを終え宿題に取りかかろうとしたその時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。ハイと言って振り替えると、弟であるサスケがその向こうに立っていた。

「ちょっと話があるんだけど……。」

ドアを後ろ手でパタリと閉めたサスケは、部屋に入ってくるとイタチのベッドへ腰かけた。サスケはもう中学生だが、何かお願い事があるときは昔からベッドに座る癖があることをイタチは見抜いていた。

ここのところ反抗期もあってか、あまりサスケがこの部屋に来ることはなくなっていた。しかし、そんなサスケが話しに来るのだから大事なことに違いない。

イタチは、シャーペンを置くとベッドに腰かけたサスケと向き合った。

「話とはなんだ?」

「……。」

聞くと沈黙したところから、相当込み入った話であることが伺える。うつむくサスケの口が開かれるのをイタチはジッと待つ。

「兄さん。」

再び、サスケが口を開くと彼はイタチの目を見つめ、オレ、と言った。

その主語に続いた言葉は、イタチを驚愕させ、また愛しい気持ちにもさせた。

イタチはもちろんそれを顔に出すことはしなかったが、サスケのただならぬその悩み苦しむ思いに、真摯に答えようと、彼の隣へと移動した。

「兄さんッ。」

「サスケ、ありがとう。オレはサスケにそう言われて嬉しい。」

「じゃあッ!」

「けどな、サスケ。お前は勘違いしている。」

「勘、違い……?」

身を乗り出して興奮しているサスケを諭すようにイタチはそっと肩に手を置き言う。

「『好き』と言うのには色々な種類がある。例えば、一般的に男女の間に生まれるとされている恋心のような『好き』や、神のように相手の利益だけを考え自己犠牲も厭わないアガペー的な『好き』がある。他にも、ストーゲイと呼ばれる穏やかで友愛的な『好き』もあるし、愛を地位向上などの手段と考えているプラグマのような『好き』もある。サスケ、お前の場合は家族に対する親愛的な感情をあたかも男女間における恋愛感情と捉え、『好き』だと勘違いしているだけだ。だから……」

「でも、オレは母さんや父さんにこんな感情抱かない。」

イタチが全て言い終わる前にサスケは言った。少し間を置いて息を吸うと、肩に置かれた手を振り払ってイタチの服をギュッと握りしめた。

「母さんと手を繋ぎたいとは思わないし、父さんに抱きしめられたいとも思わない。それに、オレ、兄さんになら、キ、キスだってできると思ってるんだ。兄さん!オレは……ッ。」

「サスケ。落ち着くんだ、サスケ。」

テンションの上がっているサスケは、イタチの言葉を話半分にしか聞いていないようだった。

それもそのはず。
サスケはこれまで一度だって恋愛感情なんて生まれて来たことがなかったのだ。だから、サスケの心に浮かび上がった兄に対するその感情が何であるか、上手く解釈できていないのである。

賢いサスケは一人自問自答することによってその答えを得ようとした。その結果、辿り着いた答えがそこ。

『オレ、兄さんが好きなのかもしれない……。』

である。

賢いと言うのも考えようだ。

まだ、男女に関する恋心も知らぬサスケが、兄に対して抱いた感情をそれと同じものだと判断してまったなら致し方ない。

しかし、それが『恋』だと決定するにはまだ早すぎる。

それならば、サスケが少しでも健全な方向へ向けるように手助けをするだけだ。

イタチの服をしかと掴み、今にも崩れてしまいそうなその震える手をイタチはそっと握りしめる。

そして、彼の頬に唇を寄せた。

目を見開いたサスケは黙ってオレを見つめた。

「サスケ。お前のオレに対する気持ちはわかった。」

「……。」

「でもな、それはオレだけじゃないはずだ。」

「兄さんだけじゃない……?」

「そうだ。」

イタチはサスケが掴んでいた手を服から離すと、優しく膝の上に置いた。

「これから生きていけばわかる。似たような感情を抱かせてくれる人がオレ以外にもいるはずだ。」

「そんなこと……。」

「今はまだ分からないだけだ。お前はまだ若い。もっと経験を重ね、オレの言葉を十分に理解してから、またオレの前へ現れろ。」

「……。」

「いいな、サスケ。」

「……。」

「返事は。」

「……分かったよ。」

渋々頷いたサスケは、手を離すと重い腰を上げ立ち上がる。

ドアを開け少しだけ振り替えると、兄は優しく微笑んでいて、サスケはその幼い瞳に薄く涙を滲ませた。

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