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病床に来る
白い。無機質な天井に地の薄いカーテン。かぎなれない薬品の臭いがプンとして、体にかかる布団がどこか重い。隣に来た看護士がオレを起こし、カチャカチャと音を立て簡易な器械で腕を締め付ける。

弛緩して、流れる血液を感じた。

「終わりました。時間になったら朝食ですので、それまでゆっくりしていてください。」

今日も1日が始まった。







「よッ!」

目にも鮮やか。いつもの、忍にはにつかわしくない格好でアイツがまたやってきた。

「今日は任務休みだから早く来ちゃったってばよ。」

すでに太陽は頂点を通過し、あとは落ちていくばかりだったが、確かに普段よりも何時間も早い時刻であるのは間違いない。なぜ、毎日のようにコイツが来るのかわからなかった。

「でさ〜!」

下らない、どうでもいい話を延々として。相づちを打ったり打たなかったり。いや、どちらかといえば、打たない方が多いのではないだろうか。

この部屋は個室だから何時間いても、どれだけ声をだしても、他の誰かに迷惑がかからない。

だからなのか、コイツは本当にいつまでまも、タラタラと似たような話をいつまでもしている。

よく飽きないもんだとある意味感心さえする時もある。

話に聞き飽きたオレは、横になって窓の外を見た。

空は青くて澄んでいて、まるでこの地上とかけ離れているみたいにそこにある。

それは、まるでバカだノロマだトンマだなどと、地上を見下し、触れるものなら触ってみろと、延々と終わらない挑発を受けているみたいだった。

いつの間にか、ナルトが窓辺にいて空を見上げていた。







「うちはさん。」

名を呼ばれてゆるりと振り向けば、夕食ですよと担当の看護士が食事の準備を始めていた。

味気のない食事。

ただでさえ、食欲が落ちているのに、そんなものを胃が受け付けるハズもない。

セットされる色味のない食事たちを脇に寄せて、オレはリクライニングされたベッドに頭を着けた。

「食べないのかよ。」

看護士が去るとナルトは簡易椅子を持ってベッドの近くに寄せた。そんなナルトに返事をしないでいると、

「じゃあオレが食べさせてやるってばよ。」

と嬉々としてプラスチックのスプーンを取り上げ、お粥だかなんだかわからないような、ドロッとした物体を掬いとった。

あーんと言って湯気もたたないそれを笑顔でコチラに向けた。

一体コイツはなにがしたいんだ。

一体コイツはオレをどうしたいんだ。

毎日毎日、飽きることなくやって来て、話をして、そしてまた帰って、一体何だって言うんだ。一体、何のためにやって来て、こうしてスプーンを差し出すのだ……!







弾かれた食器がカシャンカシャンと床に無秩序に散らばった。ただでさえ不味そうな食事は誰が通ったかもわからない床でぐちゃぐちゃと広がった。

「何すんだよ!」
「こんなもの……食わせて何が楽しいんだ!」

スプーンの行く先を見届けたナルトは親切を仇にした宿敵に睨みをきかせる。しかし、キレているオレも当然の如く怒りをぶつけ返す。

「せっかく作ってくれた料理無駄にするんじゃねぇってばよ!」
「何が料理だ。そんなヘドロ、誰が食えるかってんだ!」
「ヘドロってなんだってばよ、ヘドロって!お前の体に合わせて作ってくれたんじゃねぇのかよ!」
「誰もそんなこと頼んでねぇよッ!」

指をさして全力で怒りをぶつけてくるナルトに、数日何も口にしていないオレは堪えた。ちょっと叫んだだけで息はあがるし、頭だってクラクラする。だけど、コイツを前にそんな様子は見せられない。

「大体……、馬鹿じゃねぇの。」
「何がだってばよ?」
「何、毎日毎日来てんだよ。暇にもほどがあるだろッ。オレに構ってる暇でもあれば、修業でもなんでもしてろってんだッ!!」
「な……っ。」

よく解らなかった。
なぜ、こんなにも自分が苛立っているのか。

ただ、目の前にいる金髪が毎日この白い密室に訪れる日常がオレをたまらなく焦らせた。と同時に、身を切り裂かれるような痛みを感じるんだ。

コイツが訪れる度に、しゃべる度に、笑う度に……!

それを感じないように、適当にあしらって、無視して。それにも関わらず、コイツは毎日訪れては「また明日」なんて迷い事を口にするんだ。そんな約束、叶わないかもしれないのに。明日になったら、みんな消えてしまうかもしれないのに。簡単に言ってくれるな。

少しナルトが言葉に詰まっている間にオレは「もう二度と来るな。」と吐き捨てると、布団を被って横になった。

すると、ナルトが布団に向かい躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

「オ、オレだって、毎日来たいわけじゃねぇってばよ!」
「じゃあ何で……ッ!」
「サスケがいないと調子が狂うんだってばよ!」

布団を被ったまま疑問をぶつければ、そんな身勝手な理由。

「任務してても、修行してても、オマエのことばっか頭に出てきて、気になって仕方ないんだってば。」
「知るかよ…そんなこと。」
「オレだって知らないってば。」

ナルト自身がなぜここに来るか分かっていないのに、オレが分かるはずもない。分かりたくもない。

「来て欲しくないんならさっさと退院しろよな。」

ナルトはぶっきらぼうにそういうと沈黙して立ち尽くした。







しばらくするとガラリと戸が開く音がし、看護士が食事を片しにきた。そうして、

「何でもいいから食べなきゃ退院できませんよ。」

と声をかけてくるとお友達も心配してるじゃない?そう言って帰っていった。

ピタリと病室のドアがしまると、それまで沈黙していたナルトが不意に話しかけてきた。

「何なら食えるんだよ。」

と言ったので、

「……トマト。」

と答えた。

あっそ。と言ってその場を去ったナルトは数時間後にビニール袋いっぱいのトマトを抱えてやってきた。

数日ぶりに口にした季節外れの青いソレは酸っぱくて、涙がこぼれそうになった。















病床に来る。

それは、鬱であり、人であり、贈り物であり、日常であり、非日常であり

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