*拍手ログ 片倉先生1 side:R 私は松永怜。 今日──二年の一学期から、婆裟羅学園高等部に編入することとなった。 この学校はひとことで言うと変わっている。 入学(編入)試験はいっさい無く、面接のみで合否が決まる。各学年ひとクラスずつで、その気になれば日本トップレベルの大学に入れる位の教育もしてくれる。 なのに。 なのに、だ。こういった情報は外に漏れない。 なぜ私が知っているかって、それは我が叔父上殿がこの学園の理事長で、あの鬼畜親父(心中で叔父を呼ぶときはこれに限る)が無理矢理私をこの学園に編入させたのだ。 そんな訳で私は今その立派すぎる門扉をくぐり、職員室を目指しているのだが。 「まよった……」 この学園人数の割に広すぎるだろ。どう考えても中庭が庭園すぎる。 ……ああ、テンパりすぎて日本語が分からなくなってきたよママン(泣) 事前に送られてきた生徒手帳付属の地図を見る限り、この近くのはずなのだが。 ううんと下を向いていたのがいけなかったのか、曲がり角から飛び出してきた人影にもろにぶつかってしまった。 「わっ」 「うおっ!?」 瞬間、ふに、と唇に柔らかい感触。 「ッ!!??」 「っだ、大丈夫か?」 目の前には、目つきのあまり良くない、強面の男の人。背景は、天井からバサバサと舞い下りるプリント。 「……」 「悪い、急いでたもんだから……その、大丈夫か? あー……唇以外、という意味だが」 本当に申し訳なさそうに謝ったその後で、ニヤリと悪そうな笑みと共に言い放った一言。それでようやく、さっきの感触の正体に気づく。 「っ……!」 「お、わ泣くなっ! 分かった、今のは事故だ忘れよう。何も無かった。な?」 男の人は慌てて私を起こし、プリントをかき集めると、ダッシュでその場を去っていった。 残された私は、今更のように職員室の場所を聞けば良かったと後悔した。 (ファーストキス、だったんだけど) side:K 俺の名前は片倉小十郎。 婆裟羅学園という私立の中高一貫校で、しがない英語教師をやっている。 今日は朝の職員会議で使う書類をコピーしていたのだが、どうやらコピー機の調子が良くないらしく。仕方なく職員室ではなく事務室の方のコピー機を借りた、その帰り道。 職員会議まであと五分も無い。あの校長のご機嫌を損ねると大変だ急がなくては。 プリントの無事を確認しつつ焦って確認もせずに曲がり角を曲がると、視界に飛び込んできた小柄な人影にもろにぶつかってしまった。 「わっ」 「うおっ!?」 瞬間、ふに、と唇に柔らかい感触。 「ッ!!??」 「っだ、大丈夫か?」 目の前には、栗色の髪に吸い込まれそうな漆黒の瞳の、愛らしい少女。見えるのは、床についた己の右手と少女の頭をガードした左手(誰か俺を誉めてくれ)と、その少女だけ。 「……」 「悪い、急いでたもんだから……その、大丈夫か? あー……唇以外、という意味だが」 本当に申し訳なさそうに謝ったその後で、ニヤリと悪そうな笑みと共に言い放った一言。悪ふざけのつもりだったのだが、次の瞬間少女は見る見る内に瞳に涙をためた。 「っ……!」 「お、わ泣くなっ! 分かった、今のは事故だ忘れよう。何も無かった。な?」 慌てて少女を起こし、散らばったプリントをかき集めると、ダッシュでその場を後にした。職員会議まで後二分、本気で急がねば。 しかし、そういえば今の少女、見覚えがない。人数の少ないこの学園でそれは有り得ないだろう。だとしたらいったい誰だったのか── その答えはすぐに分かった。職員室のドアを開けると、そこに理事長の松永久秀がいたからだ。 「これは片倉君。どこかで栗色の髪の美少女を見なかったかね」 「は……?」 ちなみに俺はこの松永が苦手というか嫌いだ。理由は分からないが、話し方も一挙一動もどうもイラッとする。 「姪なのだが方向音痴でね。この時間まで来ないとなると迷っているとしか思えないのだが……」 「あの理事長、その少女が何か?」 相変わらずのマイペースさに頭痛を覚えながらも小さく挙手すると、松永は一瞬キョトンとした。 「ああ、言っていなかったか。今日付けで編入するのだよ。見かけたのなら迎えに──おお、怜!」 「ゲ、叔父うぶっ」 小十郎の背後を見て目を輝かせた松永は、先程の小柄な少女をためらいもなく抱きしめた。 (子犬みたいな救いを求める目で、俺を見るな!) +++++ とりあえず事故チューイベントからスタート的なね [*前へ][次へ#] [戻る] |