赤ずきんの謎の正体 その瞳は、茶色い髪からは考えられないほど真っ黒、漆黒だった。 ハルは二人を見るなり素早くスカートの中から拳銃を取り出し、ダンダン!とすさまじい銃声を響かせながら、その脳みそ目掛けて引き金を引いた。 その攻撃に一瞬、といってもゼロコンマ一秒怯んだスネイプだったが、目にも止まらぬ速さで杖を振るい弾丸を弾き返した。 予想外の事にハルは目を見開くと、次はナイフを取り出しスネイプに向けて投げ付けた。 スネイプはダンブルドアを後ろへやりながら、さっきと同じように杖で弾き返した。 それによって飛ぶ方向を変えたナイフは、ハルが座っている椅子の背もたれに突き刺さった。 耳の直ぐ横だった。 スネイプはわざと外したのか、それとも偶然だったのか、彼の形相を見ていてもわからない。(まるで頬に蚊が止まっているかのような顔をしていた) それにハルは観念したように動かなくなった。かと思えば、声を上げて笑い始める。 それは自分への嘲笑いだった。無計画な脱獄をした自分への。 スネイプとダンブルドアは驚いた。 まばたきをして、2人で顔を見合わせる。 「さっさと殺せ。逃げ出すような餓鬼を生かしておくわけがないって事は知ってる。」 ハルは酷く顔を歪ませながら笑い続けていた。さも楽しそうに。 だが、勿論二人はハルが言ったことの意味がわからない。 何故見知らぬ少女を殺さねばならないのか。ダンブルドアは一歩前に出て、ハルを落ち着かせるように優しく声をかけた。 「そなたは何か勘違いしておるぞ。」 「そう。今殺さずにもっと酷い実験の材料にしようって事? なら尚更ここで死ぬ!」 ハルは背もたれに刺さったナイフを抜き、自らの首にあてがった。 これは面白いことになりそうだ、とスネイプの口元が微かに歪む。 「エクスペリアームズ!」 しかしそれを見たダンブルドアは、急いで杖を振りナイフを遠くへ飛ばした。 それは弧を描き、壁に突き刺さる。 ハルは酷く乱れた呼吸を、肩で整えていた。 「わしの話を聞くのじゃ。わしらはお嬢さんを殺そうとは思っとらん。また、実験の材料にする気もない。分かったかの?」 ダンブルドアはハルに近づくと、腰を屈めてニコリと笑った。 その優しい笑みに、目が離せなくなる。 「ごめ、なさ…」 彼らは政府の人間ではなかった。 よくよく考えれば、自分を拾ってくれて、肩の傷も手当もされている。 見ず知らずの自分にこんな親切にしてくれた人になんて事を… さっきとは打って変わって罪悪感がハルを襲う。 「わしはアルバス・ダンブルドア。彼はセブルス・スネイプ。お嬢さんの名前は?」 ダンブルドアが猫撫で声で聞いた。 ハルは顔を上げると静かに言った。 「ハル・ヴィジャード。今まで赤ずきんと呼ばれていた。」 ハルが冷静を装いながら答えた。 ダンブルドアには、強がっていることはバレバレ。 「そうか、なら赤ずきん――」 「ハルって呼んで。」 「ハル。」 ダンブルドアの言葉にすかさず割り込んだ。 赤ずきんと呼ばれるのは好きじゃない。心の中で述べた。 「一つ聞きたい事がある。 そなたは魔女か?」 予想外の質問に目をぱちくりさせて驚いた。 魔女?頭の中でその文字がスクロールされる。 そんなもの存在しない。そう言いたかったが、ダンブルドアの顔はいたって真剣。 冗談を言ってる風には見えなかった。 「人間であるかさえ危うい私が魔女なはずない。 それとも何?私が魔女でなければならないような事があった?」 そんなの馬鹿げてるけど。そう頭の中で述べてから、フッと笑ってみせた。 冗談混じりに言った言葉。ダンブルドアはまた真剣な顔で言った。 「それがあるんじゃよ。 このホグワーツは沢山の難しい魔法がかかっており、無関係者はここに入るどころかボロボロの廃墟にしか見えとらん。 それがどうしたものか、お前さんはここにおる。 もしかして、血縁者に魔法使いがおるのでは?」 「私は、祖国で武力として生まれた。 立てるようになった日から銃を持ち訓練をさせられた。 18歳になるとスパイや特別自衛隊として国に貢献していく兄弟たち。 世界中から優秀な学者やスポーツ選手から精子を提供してもらい、国に住む女性に受精させた。 私は母の顔も父の顔も知らない。 ましてや魔法使いだったかなんて…」 わかるはずがない。 ダンブルドアは気まずそうに下を向いていた。 [*前へ][次へ#] |