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僕だけの祈り
3





「いいの、いいの。向こうは多分、本気で俺が嫌いだろう。何しろあいつって、自分の美貌を鼻にかけてる、って感じだし。俺の美しさに嫉妬して当然なわけよ」
 渡辺の言ってることは、ほとんど事実だから何も言えない。が、自分で言うか、普通!?
 男にしては繊細で美しい、渡辺雪彦。しかも、新条みたいにスレてる感じはなくて、包容力があって上品で優しくて、女にモテて当然の奴だ。
 しかも高校生のくせに女とヤリまくっている、という噂は事実だ。だから俺の話を聞いても平然としてこんなことを言う。
「別に生エッチ目撃したわけでもないのにうろたえるなんて、ユミちゃんもまだまだおこちゃまだねぇ〜」
「目撃したんだよ、俺は」
「ただのキスだろぉ?」
「で、でも脱がせてたし……」
「目撃してうろたえるのは、それこそホントに入れてる時だよ」
「い、い、入れてる、って……」
「話だけでもうろたえちゃう? 新条のいい玩具にされて当然だな、それは」
「お前や新条が変わってるだけだッ」
 顔がいいだけで、こいつらなんてひと癖もふた癖もあって、厄介でしょうがない。

 渡辺は昼飯時だと言うのに、平然としてグロい話もしてくれるから怖い。
「キスだってそりゃ、入れてるうちだろうけど、公衆の面前でやっててもまだ許されるだろ? 裸でお互いを触りまくってる、っていうくらいじゃ、全然驚くに値しないじゃん。ユミ、聞いてる? ビビるならね、それこそ、水に浸した食パンをスプーンの腹で叩いて潰してる時ぐらいの音がしてるような本番じゃなきゃぁ……って、大丈夫か? おい」
 水に浸した食パンを想像してしまって、気分が悪くなった。ちょうどサンドイッチなんて食ってた時だったもんだから。
 水に浸したパンを潰す音って……つまり、あの泥の上で足踏みするような、グッチャグチャ、ネッチョネッチョ、思い切り鳥肌の立ちそうな音か?
 渡辺はにやりと笑って、
「男同士じゃ、どこでやるか想像してみろよ。アソコの穴で、ぐちぐち音たててやるんだぜ? なぁ?」
 わざと意地悪く俺に想像させる。
 まあ、普通のポルノビデオだってあんまり見たことのない俺だから、想像するのは難しかったが、渡辺の不気味な話法で、なんとなく想像は出来てしまう。
「女とやるのとは違うさぁ。新条、よっぽど慣れてんのかな。一度、やらしてもらおっかなー」
「渡辺ッ、お前、お前……女しか」
「男なんて眼中にないよ。でもほら、俺だってお年頃ってやつだし、なんでも経験してみたいじゃん?」
 あああッ、俺は……俺は!
「お前らに関わってたら汚れるぅぅ〜ッ」
「失礼な奴だな。あ、こら!?」
 渡辺の声を振り切って、俺は教室から逃げ出した。

 駆け込んだトイレは、人がいなかった。
 とりあえず顔を洗って、手を洗う。そんなことをしてたら、すぐに俺の後から人が来た。
「よお」
「あ……伏見」
「変な話で盛り上がってたな」
「わ、渡辺が勝手に……」
 伏見あきら。なんてタイミングで現れるんだ、こいつは。
 この学校にいるのが不思議なくらいのおバカさんで、でも勘は鋭い。苛々させられるほどの天然のアホさだが、可愛げがあるんで誰もが許してしまう。
 俺が、新条のことでうろたえるのは、こいつが原因でもあった。
「昼間から堂々とエッチがどうのこうのって……ユミ、好きな人でも出来たのか?」
「違うってば。新条のことで……」
「新条? 廻?」
「知ってるのか?」
「さっき教室に来た。あいつ、今何時間目だと思ってんだろうなぁ」
 ねぇ?ってなふうに俺に笑いかけた伏見は、無茶苦茶、可愛い。
 しぐさのひとつひとつが、そのアホさとマッチして、リスみたいなんだ。髪も茶色っぽくて、目もくりくりと丸い。
 全てが小作りで、可愛くて……最近、俺はどうかしている。伏見のこと、なんでこんなに贔屓目で見てるんだろう。最初は、なんてバカな奴だ、と思ってたのに。

「あ、そうそう。それで、新条に聞かれて、ユミ呼びに来たんだよ」
「新条に? しょうがないな。すぐ行くよ」
 伏見は、割りと誰とでも仲が良い。みんなのペットにされてる感じだ。
 渡辺が俺をユミ、ユミと呼ぶのを羨ましがって、たまに冗談としてユミと呼ぶ。普段は、ちゃんと房近って名字で呼んでくれるんだけど。
 でも俺だって、密かに伏見をあきらって呼びたい時がある。
 あきら……あきら、って呼んで、抱き締めて? その後は……その後は?
 ボンっ、と新条のキスシーンが頭に浮かんできて、同時に顔がかーっと熱くなった。洗面台の鏡で見ると、耳まで赤い。
 ごめん、伏見。こんな不埒な想像をしてしまって。お前は俺のオアシスだ。可愛いあきら……。




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あきゅろす。
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