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僕だけの祈り
24




「おまえら、人んちの前でうるせぇよ。とっとと帰れ!」
そう言うミノルさんは声から感じた通り、不機嫌な顔をしていた。最初に会った時とは違い、目も充血していて凄味がある。
俺はもう、完全に帰る心づもりになっていた。一歩下がったくらいだ。
だけど中丸は強引にドアに手をかけ、足を隙間に入れ、ミノルさんを無視して家の内側に向かって、
「廻!」
と叫んだ。
な、何やってんだ!
俺はその場で固まったまま見守ってしまう。
ミノルさんが中丸の爪先を蹴飛ばした。
「何やってんだよ!」
「うるせぇぞ。廻に会わせろ」
「関係ないだろ、てめぇ!」
「廻は最近学校に来てねぇんだよ。なんでだ、おまえのせいか? あ?」
「なんなんだよ、てめぇは…!」
狭い隙間で、二人は、強引なセールスと団地妻のような攻防を繰り広げている。
だけど、だんだん俺も不安になってきた。
だって中丸があんなに大声で呼んだのに、新城が出てくる気配はないのだ。寝てるって言っても、こんなに騒いでるんだから出てくるもんじゃないか?
中丸とミノルさんが言い合いをしているので、俺はその背後に寄って家の中をのぞいてみた。やっぱり、新城がいる気配がないんだけど……。
「新城?」
大声で呼んでみた。
「新城? おーい? ちょっと、あんた、新城はほんとにいるのか? もしかしてあんた一人?」
あまりに不審なので、俺も強気になってミノルさんに聞いてみる。舌打ちしそうな顔で睨まれたけど、家の中に誰もいないのはおかしい…。
その時だった。奥の方で、かたっと音がした。
あ、と思って目を向ける。だけど、俺達以上に、ミノルさんが凄い勢いで背後を振り返った。奥の扉をじっと見つめて硬直している。
その様子は、絶対におかしい。俺達は確信した。
「新城っ!? 大丈夫か!」
「廻!」
「しんじょーう!」
また奥の部屋から、多分寝室にしている部屋から、物音がした。がたん、と大きな音だ。その音がした瞬間にミノルさんがそちらへ飛ぶように走っていった。
ばたばたばた、と素足で廊下を走り、やっぱり寝室へ飛び込む。
「廻っ」
そう呼ぶ声がした。やっぱり、新城はそこにいるんだ。
でも俺達に返事をしないってことは……?
中丸と顔を見合わせる。
「猿轡とか?」
「寝ぼけてるのかな?」
俺達は全く違うことを言い合って、お互いに驚いた顔をした。中丸は小さくため息をつく。
「おまえ、おめでたい頭してんだな。あの男がまともな奴なわけないだろう」
「えっ…だ、だって」
さるぐつわ? そんなの、考えつくわけない。
中丸は声を潜めた。
「あいつ、親父のところの下っ端に感じが似てる。ああいう奴らはやるぜ、拉致監禁くらい」
「えっ…」
俺は絶句した。親父のところ……って、組か? ヤクザか?
下っ端って、ちんぴらか?
身近にそういう出来事があるなんて、思わない。
普通、思わないよな? 新城は男だしな?
冷静にそんなことを言える中丸がおかしいんじゃなかと思ったけど、中丸は俺のことをちょっと信じられないものを見る目で見ているのだ。
奥に行ったミノルさんも、そこにいるらしい新城も、出て来なかった。
俺達が待っていたのは、数分くらいだ。長く長く感じたけれど、せいぜい2、3分に違いない。
中丸は突然、隣のドアまで駆けて行き、ドアホンを勢いよく押す。俺はその場で、新城の家のドアを押さえながら見ていた。
中丸は出てきた人に、こっちを指さしながら何か説明すると、相手の人が何かを言う前に部屋へとあがって行ってしまう。出て来たのは学生のような若い男で、驚いて中丸を追って部屋の中へと消えた。
新城の家は玄関をまっすぐ行くとリビングがある。玄関からは、さらにその奥のベランダが小さく見えるのだが、そこに不意に中丸の姿が見えた。隣の部屋のベランダから来たみたいだ。
中丸はどこから持って来たのか、多分、隣の人の物だろうけど、バットを持っていた。
それを思いきり、振り上げる。
「あ、あいつ…っ」




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あきゅろす。
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