僕だけの祈り
18




俺が一番可愛いと思うのは伏見だし、一番美形だと思うのは雪彦なんだけど、よく見ればこいつも実はけっこう顔は整ってる。目立つ美貌ってわけじゃないんだが。
こいつも俺みたいな悩みはないのかなぁ。誰かを好きだとか、誰かに迫られてるとか。
俺よりよっぽどそういう話に縁がありそうだな、と思いながらついつい無言で長戸の顔を見つめ続けてしまった。
「なんだよ、何か言いたいことでも?」
不機嫌そうにそう言われ、俺がずいぶん不躾に凝視してしまっていたことに気づく。
「い、いや、別に。顔、整ってんなぁと思って見てただけ」
思わず素直にそう言ってしまう。俺は短慮かも知れん。普通、臆面もなくそういうこと言わないだろう。
雪彦みたいに言われ慣れてる奴相手ならともかく……。
やっぱり、長戸は戸惑ったように顔をしかめた。
「はぁ? なに言ってんの」
頬が少し赤くなっていたが、それにはつっこまないでおこう。ますます機嫌を損ねてしまうだろうから。
「悪い。なに言ってるんだろうな。俺、最近ちょっと悩みごとが多くてさ」
ははは、と笑って済ませてしまおう。
そそくさとその場を離れた。
なんだか、会う前とは違う気まずさに落ち込みながら。


長戸が教科書を返しに来た時、俺は教室にいなかった。
雪彦が預かっていた俺の教科書を渡してくれて、
「あいつも忘れてたんだなー。御門のこと言えないじゃん」
なんて笑っていた。
俺はやっぱり、友藤と長戸には嫌われているような気がしていて、雪彦の軽口におおっぴらに笑い返すことができなかった。


雪彦の幼馴染み達はクラスが違うからまだいい。
よく考えてみればそんな必要はないのに、俺は同じクラスの中丸を避けるようになってしまっていた。
中丸と話していると新城が割り込んでくる。
あいつは雪彦が嫌いだから、俺にいつもべったりくっついてるわけじゃない。教室でもどこでも、俺を見ているのか、中丸と話し始めると新城が絡んでくるのだ。
だから自然と中丸を避けていた。新城を避けたかったから……。


「わかりやすいよな、あいつ」
雪彦は新城の行動をそう言って微笑ましく見ている。
「微笑ましく見るなよ! 友達が困ってんのに、酷くないか」
「いいじゃないか、モテてるんだから」
「嬉しくない……。雪彦は男に告白されて嬉しいか?」
「俺、男に告白されたことあるよ」
「えっ!」
俺はきょろきょろと教室を見回し、皆が大声で喋りまくっている騒がしいいつもの昼休みの光景に安心し、尋ねる。
「い、いつ?」
「そんなこと知りたいの? やっぱりユミって俺に気があるんじゃな〜い〜?」
気持ちの悪い裏声で喋るな。
俺が黙っていると、雪彦はしかし、勝手に喋り出す。
「小学校一年くらいの時、御門に。将来、結婚してくださいって……おい、聞いてるのか?」
小学校一年、という言葉が出てきた時点でがっくりと机に額を打ちつけた俺の肩を、雪彦が軽く揺さぶった。俺は伏せたまま、
「小学校一年なんて数に入らねぇよ…」
「そうか? じゃ、俺の小学二年のファーストキスは? 数に入らないのか?」
「相手、誰? 友藤? それとも親?」
「いや、クラスの和子ちゃん。クラス一可愛かったなぁ」
小学二年で異性とキスをするとは……羨ましいと言うより、俺は呆れた。
顔を上げると、雪彦はにっこり、笑いかけてくる。
小学生の頃、どんな可愛い子供だったんだろう。
ハーフの子って天使みたいに愛らしいから、きっと雪彦もふわふわしてそうな真っ白な肌に金髪で、目が大きくて唇はピンク色で、可愛かったんだろうなぁ。
別に、俺は小さい子供に興味はないけど。
「で、初体験は?」
「え?」
俺の問いに雪彦が一瞬、口を開けて黙った。
なんでそんなに驚いてるんだ?
俺が怪訝そうな顔をし、問いかける前に、雪彦の大袈裟な声が響く。
「ユミからそんな質問が出るなんてっっ!!」
「お、おい…」
「そんなこと、興味はありませんみたいなウブだったのに! いつの間にさらっとそんな質問ができるようになっちゃったんだ? ああ、新城のせいか。ああ、親友が汚されちゃった気分……」




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あきゅろす。
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