「乗れ!」
カーリヒの叫び。
同時にキトウの手が翻って見覚えのある動きをした。
それは、彼が短刀を投げる時の動きだ。
以前もカーリヒを狙って投げた時と同じものだった。
「あっ…!」
短刀がカーリヒに刺さったように見えた。
……気のせい!?
確認したかったけれど、僕は天馬に乗ってここを離れなければいけない。
カーリヒが気になるけれど、彼は僕が早く去らないから怒っているんだ。
天馬は優しくて、僕が乗ろうとしてもおとなしくしていてくれた。鐙がなくて乗り辛いけれど、なんとか乗ってしまえば心地いい。裸馬でも充分だ。
優しくたてがみを握ると、察したように天馬は走り出した。太陽を右にして進むよう、そちらの方向へそっとたてがみを引くとそのように走ってくれる。
馬よりもずっと揺れが少なくて、馬上は安定していたから、僕は肩越しにそっと振り返ってみた。
片手で顔を押さえたカーリヒが剣を構えているのが見えた。その姿がどんどん小さくなる。
やっぱり気のせいじゃなかったんだ!
確信して僕は喉がぎゅっと締めつけられたような痛みと、息が止まるのを感じた。
彼の目に短刀が刺さったように見えたのは……気のせいじゃなかった!
「ごめんなさい、カーリヒ……!」
彼はどうなるんだろう。僕のように捕まって、あそこに閉じ込められるんだろうか。
ラグアルもコマイも置いて来てしまったのに、カーリヒまでも置き去りにしてしまった。
それにシシリーとキトウが追い付いて来たということは、バイアスとキャラバンの人達はどうなったんだろう?
バイアスは食い止めると言っていたのに、二人が来たということは……?
もしかしてバイアスも捕まってしまったんだろうか。あるいは殺されたのかも知れない。
ぎゅうぎゅうと胸を締めつけられるような痛みが走る。
苦しさにそっと息を吐き出すと、それと同時に涙も流れて来た。
僕はどうしたらいいんだ。
彼らを助けるためにどうすればいい? そして、償うにはどうすればいいの?
今の僕は、一人ではその答えさえも出せないんだ……。
シシリーが乗っていた天馬はさすがに足が速かった。
キトウが乗っていた天馬よりも速かったようだ。カーリヒを気にして振り返った時、僕を追おうとしていたキトウは、全く距離を縮めることもないまま僕からは見えなくなってしまった。
多分、キトウも僕の姿を見失っただろう。
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