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短編集
高校生。
「俺、かなに振られちゃった…」
 なんで、おまえは俺にそういう話をするかなぁ。
 俺は哲哉を振り返る。椅子に膝を立てて行儀悪く座っている俺の親友。
「かながさぁ、俺に飽きたとか言うんだぜ…どうしろってのよ俺に……俺は……ずっと、かなが好きなのにさ」
 悲痛な声で言いながら、哲哉はゆっくりと、膝に顔をうずめていった。
「飽きたって何だよ……この間まで俺のこと好きって言ってたのに…」
「……女はわかんねぇからな」
「飽きたとか言われたら、どうにもできねぇじゃん。かな…」
 泣きそうな声で、女の名前なんか呼ぶおまえのそばに、飽きないでずっとずっといてやってる俺の存在を、おまえは忘れてるんだな……。
 哲哉は恋の相談をすべて、俺にする。
 好きな女ができたとか、女と喧嘩したとか、振られたとか……。そのたびに泣いているおまえを、俺は言葉だけで慰めてやるしかない。
 俺はずっと哲哉が好きなんだよ。
 哲哉……女ばっか見てるおまえには、わかんないかもな。男に惚れるなんて。
 でも俺はおまえが好きだ。
「かなのこと好きなんだよ…俺どうすりゃいんだよ…っ」
 哲哉の声は嗚咽混じりだ。
 かっこ悪い。でも、好きな男に女のことで相談されてる俺、もっとかっこ悪いんじゃないかな。
 哲哉を泣かせる女……憎い。
 憎いけど、とてつもなく羨ましいんだ。
 隣のクラスのかな、あいつは哲哉の心をこんなに乱れさせてる……ずるい。ずるい。羨ましい。
「哲哉……元気出せ」
「……」
 俺のおざなりな声には、返事はなかった。
「かなは……おまえのこと、嫌いになったわけじゃないんだし」
「うん」
「えっと…だってこの間まで、おまえのことほんとに好きみたいだったから」
「うん」
「一度、離れてみたら。そしたらおまえのいいトコに気づいてまた近寄ってきてくれるかもよ」
「うん…。かなと離れるの、辛いけど…我慢する」
「そだな。あと、おまえ、あんま何でもかんでも女の言いなりになるのやめろって。やっぱ、飽きられる理由はそれだよ」
「そっか…」
「また…なんかあったら、俺に言えよ、な。元気出せ」
「うん…」
 哲哉は、俺の言葉にうなずいて、顔をあげた。
 やっぱり目が赤くなってて、涙がにじんでる。
 そして、
「ありがとな」
 って、満面の笑みで俺に言う。
 俺に向けられるその笑顔だけが、哲哉に恋する俺への褒美なんだ。
 そして哲哉は、安心して俺には泣き顔を見せる。
 俺だけに。
 俺はその立場を失わないために、必死に、傷ついていく心を押しかくして、哲哉を応援するフリ。
 哲哉の幸せだけを望むなんて、そんな高等な愛、俺には無理。
 ただ、自分が哲哉を失わないために我慢してるだけだ。





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