短編集
高貴なる瞳
僕は、ご主人様のそばにいたい。
ただそれだけのことが、ご主人様を困らせる。
僕のこの忠誠心を、ご主人様は恐れている。
この白い手が、あなたに触れようとするたびに。
あなたはおびえていたのですね。
なんでもない振りをして、さりげなく僕の手から逃げていたのですね。
僕はあなたに触れなくてもいい。
おそばに、いさせて頂くだけで良い。
僕はあなたの為に作られた人形だから。
精工な人形は、その美しい顔を歪ませることはなく、始終、ご主人様の顔を見つめていた。
首に切り目を入れて、そこから皮を剥がす。
ピンク色の肉が晒され、白い肌は綺麗に取り払われた。
僕の美しい顔だけが、皮を剥がされることなく残される。
手足は切り落とされ、目の前で炎に投げ込まれた。
子供のようなふっくらとした柔らかい腹に刃が入れられ、人工的に作られた芸術的な様式をした内臓を取り出す。
それらも炎に投げ込まれた。
そして、右目にご主人様のナイフが突き立てられる。
あなたを見ていたいのに。
瞳をあなたは奪うのですね。
でもあなたが、僕の瞳を欲していらっしゃるので。
僕はこれを差し出します。
潰された右目は綺麗に神経ごと取り出された。
そして、左目には慎重に指が差し込まれた。
綺麗なまま取り出される僕の左目。
美しいブルーの目は、ご主人様が愛していた方のもののレプリカだから。
ご主人様は僕の左目だけを愛していたから。
美しい顔は、両目をくり抜かれても尚、微笑んでいる。
硝子瓶に入れられた僕の左目は、ご主人様が僕の額にそっと口づける姿を見つめていた。
ありがとうございます。
あなたの口づけを頂き僕は幸せです。
そっと膝の上に、僕の首を置く。そしてご主人様はナイフを振り上げた。
僕の額に、深く刃が刺さった。ご主人様の病的に細い手がそれをさらに深く押し込む。
愛しています。僕のご主人様。
頭の奥にある僕の核に、刃が到達した。
僕の意識は途切れる。
これで、僕の身体はただの、魂がない人形。壊された人形。
僕の左目だけが、ずっと、あなたのおそばに。
ずっとずっと。
あなたの愛した至純な瞳だけが、あなたを見守り続けます。
ずっと。
ずっと。
***終***
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