短編集
この雨が止まないように…
呼ばれた気がして振り返った冬樹は、雑踏の中、近づいてくる基樹をみとめ、笑みを浮かべた。
「学校帰り?」
「うん。叔父さんはどうしたの?」
「今からお前んち行こうとしてたんだよ。じゃ、一緒に行くか」
「うん!」
こんな所で偶然会えた嬉しさで、答える冬樹の声はついつい大きくなってしまう。
今日はテスト最終日。半日で学校も終わり、家に帰っても一人なので、基樹がきてくれて心が舞い上がる。
そのことを話すと、じゃあ、と基樹は言った。
「じゃ、一緒にお昼ご飯食べに行くか? 何が食べたい?」
「んーと、ラーメン」
「はは、俺が金ないからって、遠慮しなくてもいいんだぞ」
そう言いながら、冬樹よりもこの近所に慣れている基樹は、自分が気に入っている中華料理店に連れて行ってくれた。
二人並んで、ラーメンをすする。
「美味しい〜」
「だろ?」
自慢げに基樹が言った。
満足して店を出ると、いつの間にか雨が降り出していた。二人とも傘なんて持っていない。
「家まで走るか。走ればここから5分くらいだしな」
そう言って基樹が、冬樹の肩を抱いた。
濡れないようにだろうか。
途端に冬樹は胸がドキドキし始めて、雨なんてどうでもよくなる。
「お、叔父さん…僕、女の子じゃないんだから」
「そっか」
そう言った基樹は、手を離して、それを寂しく思う間も与えず冬樹のそれをつかんだ。
「さ、走るぞ」
「うん」
繋がれた手がやけに熱いと感じながら、冬樹は走り出した。
この手をずっと、離したくないなぁ……。
終
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